帰還。
意識を取り戻すと体の調子は健康であったから遭難したあの山林に帰って来れたのかと思った。しかし、上には古ぼけた天井があり見渡せば茶色い塗料を乱雑かつ無駄遣いして塗ったかのような跡があったから帰れたわけではないようだ。もう弾痕は服にしかないから動けるが、何せ撃たれることは一回くらいではなれないもので半ば引きこもるように過ごしたが段々とみじめになってきたのを覚えている。あれは誰が撃ったのかは今となってはわからない。出入り口近辺で刃物を持って引きこもるのを続けていた夜、雷鳴と無惨に木が割れる音が聞こえたあと医務室の光のない空間に身体が徐々に溶解していった。
化かされたペンションで作業着で廃材に囲まれながら目が醒めてからは彷徨いつつも旧旧道にありついて大通りに合流することができた。温かな日差しのなかで飛び交う蝶に背を向けてまた私は日常へと帰っていった。
ようやく代わりに機械をいじれる人材が見つかったとのことで乗り納めの電車へ向かうと待合室に居座る老人はまだ誰かを待っていた。もう旅人同然であるから同じく鱗粉を被った経験のありそうな老人に話しかけた。
「なあ、治郎さん。あんたが先生とあったっていう高校の医務室はどうだったかい」
ぎょっとした顔を老人はしたものの
「何か大型の動物が血を出してがのたうち回ったみたいに汚れていたから一度も使いたくなかったね。撃たれて逃げた狐が巣にしていたんでだろうよ」
そう老人が言ったあたりで汽笛がなった。