遭難
「治郎さんは気が狂ったようで、高等学校で会った先生に会いたいとさ。で、高校に行ったことはないわけだ、早いうちからそうなるなんて気の毒だよ」
噂はどこから漏れたことかはわからないが、よく伝わるようでATMのベアリングを取り替えている時に他行の利用客が後ろから教えてくれた。
ただ、いかんせん似たようなことを教える人間が多い故にいい加減この話題から離れたいと思うようになり人気のない場所に行きたくなったから山がちなところにある近所の公園に仕事帰りに行ったのだが、好奇心に負けて荒れた小道を進んだところ作業着のまま遭難した。
遭難せしことに気づいたときは落葉樹林から案内板に記載されていない針葉樹林に差し掛かったときである。戻ろうにも確かに落葉樹林ではあるが、心当たりのないすり鉢状の地形が出てきたので気力を失い焦ることすらしなかった。日が落ちて来たためとりあえず雨を凌げそうな場所を探したところ、瓦の破片が落ちていることに気づいた。瓦の破片が落ちているならば近くに旧道があると思いつられて辿っていくとそこは廃墟が風で潰れた瓦礫の山であり、集落跡地だと思われた。
これならば生活路跡地が下まで続いているはずだから、探して回ると予想は正しかったようで少しずつ道らしきものが見えてきた。ヘビやイノシシに怯えつつもとにかく進んでいくと、小綺麗になってきて人らしき気配が出てきた。空に朱色はなくなりかけているから旅館があると助かると思っていると、小さなペンションを見つけたため野宿を免れることができたのである。