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ウナギの蒲焼を作る合間、樹木のウロの中にあるイリューネ草は確認済みだった。
その時見たイリューネ草の茎には蕾がいくつかついていて、花は咲いていなかった。
不思議な気配のする植物だなと思った。
それから夜となり、蒼い月の光がウロの中に差し込みイリューネ草を照らすと、蕾が次々と開花。
次々と花から蜜が溢れ滴り落ちていく。
俺とホワイトさんは、こぼれ落ちそうになる蜜を、次々ビンに採取していったのだった。
そうして一通り十分な量のイリューネ草の花の蜜を採取することができたのだった。
さて、このまま朝を待っても良いけど、今は一刻も早くイトシノユリナに戻りたいと思った。
俺たちは狼たちに別れを告げ、町に戻ることにしたのだった。
切り立った崖の淵まで移動して……、と後ろを振り返るとアッシュパパのシルベストさんがいつまでも付いてきていた。
立ち止まって振り返ると、ハスキー犬みたいにデン! とお座りしたシルベストさんがいた。
見送るにしては、ちょっと雰囲気が違う。ついてきたそう見えるんだが……。
「どうしました?」と聞いてみると、ふんすという鼻息とともに光が出る。それに触れると「鼻水止める薬ほしい。美味しいごはん、もっと食べたい」とパネル表示された。
「神樹を守ってるんじゃないんですか?」と聞いてみると、「ふんす」(狼たちがいるから大丈夫!)とのことだった。
それからシルベストさんはしばらくジッと俺を見つめると、「ふんす」(言葉通じないの不便。ケイゴ、俺と契約する!)と言ってきた。
まあ今更テイムモンスターが一匹増えようが問題ないかと了承すると、シルベストさんと俺の体からオーラのようなものが吹き上がった。それらが混じり合い、落ち着く。
『個体名、奥田圭吾は神樹ククノチの加護神獣フェンリルを契約従魔としたことにより【神樹の加護を受けた運命人】の称号を獲得しました。それに従い各ステータスを大幅アップ、スキル【言語理解】を獲得しました』
例のレベルアップした時の機械的なアナウンスが流れ、タッチパネルのようなものポップアップ。
いつものようにステータスを確認すると、一般庶民なステータスがターニャ並みに強化。言語理解を鑑定してみると、【言語理解:システムの言語アシスト。種族生物問わず、あらゆる言語による意思疎通が可能となる】と出た。
ステータスアップもさることながら、異世界ものの定番スキル言語理解……。
試しにおっかなびっくり「あのー、俺の言葉わかりますか……?」とシルベストさんに聞いてみると「もちろんだ! 美味いメシ期待しているぞ!」とダンディーなバリトンボイスが返ってきた。ターニャに「俺の言葉わかる? あいうえお、かきくけこ」と日本語で聞いてみると「うん、わかるよ。変なケイゴ」と返ってきた。
ターニャに日本語は教えてないので、システムの言語アシストとやらはどうやらマジらしい。これまでのジェスチャー混じりの苦労はなんだったのかという今更感は否めないが、ありがたく頂戴しておくとしよう。
そしてちっこい姿のアッシュに「俺の言葉がわかるか……?」と聞くと「なあに?」と超絶キュートな声が返ってきた。アッシュを抱きしめながら悶絶死しそうになったことは言うまでもない。
さて、こんなことをしている場合ではない。
シルベストさんを連れた俺たちは、イトシノユリナへと戻ることにした。
……
それから何度かの休憩をはさみつつ飛行し、ようやくイトシノユリナが見えてきた。
町に近づくにつれ、なぜか町の広場が大騒ぎになっている。
そのとき俺の頭から、シルベストさんが客観的に見て超危険なモンスターであるということがすっかり抜け落ちてしまっていた。




