k-478
山の頂上にこんな場所があるなんて、世界はまだまだ不思議なことであふれていると思った。
標高が高いはずなのに、気候は穏やかで日差しも柔らかく、辺り一面微小な精霊の粒子が浮かんでいる。
遠くに目をやると、銀色……、角度によってはエメラルドグリーンに見えなくもない不思議な色合いの巨大な樹木がそびえたっている。
その巨大な樹木の根本には綺麗な泉が広がっており、水面に美しい樹木が鏡となって見えていた。
実に神秘的な光景だ。
それと同時に、俺の脳裏にレスタの伝承にあった【神樹の泉】という言葉が頭に浮かんだのだった。
……
景色に気をとられていて、気が付くと雌狼の姿はなくなっていた。
どうやら彼女の案内はここまでらしい。
「さて、どうしようかな」
そうつぶやく俺のもとに、いつまでたっても付いてこない俺とホワイトさんを心配してか、ターニャを乗せたアッシュが引き返してきた。
ターニャが先ほどから見惚れていた巨大な樹木を指さして、「あっち」と言った。
ここからはもう急ぐ必要はなさそうだ。
それに伝承から推測する俺の予想が当たっているとすれば、ここの獣たちを驚かせるのは良くない。
ここは、徒歩で静かに進むとしよう。
ターニャを下ろしたアッシュは巨大化スキルを解除して元のサイズになったため、俺が抱っこして歩くことに。
ビードラと乗り籠はテイムホテルに収納。竜種なんて襲来した日には、獣たちが驚くに決まっているからな。
ここまでの道中で乱れた身だしなみを整えた俺たちは、雌狼が向かった巨大な樹木を目指すことにしたのだった。




