(モノローグ・エルザ)氷の棺と未亡人 ぱーと2
それから私は、昼夜問わず泣き続けた。飲まず食わずだったので、いつしか涙は枯れていった。
目を閉じても眠れない。
再びジュノとの楽しい思い出が次々と浮かんでは消えていく。そして、彼がもうこの世にはいないという残酷な現実を突きつけられ絶望する。
その無限の連鎖。
こんな生き地獄を味わい続けるくらいならもう逃げてしまいたい。彼との楽しい思い出が消えてなくならないうちにこの世からいなくなりたい。
そんなバカな考えが浮かんでは、リンの笑顔が浮かんできて、それを打ち消す。
それの繰り返し。
お義母さんが作ってくれた料理は何度も取り替えられサイドテーブルに手つかずのまま置かれている。
私は果物の皮むき用ナイフが料理と一緒に置かれていることに気付き、それをじっと見つめ続けた。
そんな時はリンの笑顔を思い浮かべるのだ。
私は深く深呼吸をして、再び目を閉じた。
そんな愚かでくだらないことをしていると、「エルザ、具合はどうだ?」とドア越しに声をかけられた。
キシュウ先生だ。きっとふさぎ込んでいる私を心配してきてくれたんだろう。
答える気力すら湧かなかった。
それを察したのか、部屋に入ったキシュウ先生は私の診察を始めた。
いつになく優しい顔をしたキシュウ先生は、近くにあった手つかずの果物の皮をむき、すりおろして粉上の薬を混ぜてスプーンで私に食べさせてくれた。
先生はこれでだいぶ楽になるから、と言った。
不思議と弱っているとき、お医者様の言うことは聞こうとするものなんだなと思った。
すりおろしたペースト状の果物は、するすると私の喉からお腹の中へと流れていった。
するとキシュウ先生の言う通り、さっきから止まらなかった負の思考の連鎖が止まり、頭の中に靄がかかったような感覚が訪れた。
眠りたい。
キシュウ先生は、「おやすみ、エルザ。今はぐっすり眠ることだね」と言い、果物ナイフごとトレーをもって寝室を出ていった。
ドアの向こうでキシュウ先生はお義母さんに「ケイゴ君がしようしている《《あのこと》》は、明日にでも私が話しますから」と言っていた。
なんのことかしら? と思いつつ、強烈な睡魔に耐えられなくなってきた。
それから私は、何日ぶりかの深い眠りについたのだった。




