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内海の岸辺に接岸すると、そこにはシーナさんの防寒具を目深にかぶった仲間の男が冬仕様の重厚なテントを張って待っていた。
その男は白髭を生やした好々爺という風体の人物で、静かに釣りでもしながら余生を過ごしていると言っても全く違和感がない。
どう見てもスパイなどには見えなかった。
どこの世界でも、スパイとは見分けがつかないようになっているらしい。
そのバルザックさんは、近くの山の中にある小屋に住んでおり、日々海の幸を採ったり、薪や木炭を作ったりして生活の糧にしているのだそうだ。
シーナさんとバルザックさんが、「首尾はどう?」、「今のところ問題ない。山小屋で潜伏しろ」、「了解よ」的なやりとりを、トラキア人たちの言葉で交わしていた。
その間に俺たちは荷下ろしを済ませ、船を元の樹木の形に戻し撤収作業をすることにした。
そして全ての作業を終えた俺たちは、バルザックさんの小屋へと向かったのだった。
……
俺たちは吹雪の中の強行軍でバルザックさんの山小屋にたどり着いた。
顔が痛い。寒いのではなく痛い。おそらく気温はマイナス20℃を下回っている。
小屋にはせいぜい10人程度しか眠れるスペースしかない。
ならばレディーファーストということで、女性たちを優先して泊まらせ、残りのメンバーは厩と山小屋のベッドを交代で使うことにしたのだった。




