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「オモテヲアゲヨ」
目の前の精霊王はフォリア語で、歌うように鈴のような声でそう言った。顔を上げた俺の目に、無機質だが言葉に表し用のない圧を感じる存在がいた。
「初めましてエリューン様。ランカスタ王国ケイゴオクダと申します」
どちらにせよ言葉が通じないと思った俺は、日本語とジェスチャーで、なるべく丁寧な発音でそう言ったのだった。
「そなたの操る言語は異世界のものであるな? これで通じるであろ」
どういうわけかエリューン様とは一瞬で日本語が通じた。
特殊なスキルでもあるのだろうか。
「さて、よくきてくれた人間。私もお前には興味をもっていたよ。我が名はエリューン。この精霊王国メキアの王である」
精霊王エリューン様はそう言ったのだった。
エリューン様は自分のことを樹木の精霊ドリアードだと名乗った。
俺は図書館で読んだ精霊ドリアードに関する記述を思い出していた。
人間は精霊の力を借りて魔法を行使する。
樹木の魔法は土属性に該当し、ドリアードの王は土属性の上位精霊と言われている。そして通常上位精霊は人前に姿を現すことはないと書いてあったはずだ。
こうしてお目にかかれるのは、中々に貴重な体験なのかもしれない。
エリューン様はターニャとアッシュを近くに呼び、頭を撫でていた。
「ターニャはケイゴオクダのことが好きなのかな?」
「うん!」
「そうか、それは重畳である」
最初は無機質な印象だったドリアードの精霊王の雰囲気は一変。
柔和な笑みを浮かべるその姿は、まるで我が子を愛しむ母のように見えたのだった。




