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香水も商社時代に使っていたペンハリガンズのメンズ、ブレナムブーケに寄せて作ったものを使っていたら、この世界にはあまりないファッションと相待って貴族女性だけじゃなく男性にも注目された。
ちなみにペンハリガンズはイギリス王室御用達ブランドと言われており、香料の研究もしている自社で開発した。
さわやかな酸味とハーブのような上品な香りが特徴だ。
香水開発にはアイリスが一枚かんでおり、アイリスが目ざとく貴族たちに話しかけていた。
聞いていると、「旦那様! 男性用だけではなく女性用にはこういうのもありまして、意中の方へのプレゼント用におひとつ如何かにゃ?」みたいな具合で売り込んでいた。
ターニャとアッシュもユリナさんデザインの子供用のドレスとペット用のタキシードを着ていて、別の意味で女性の視線を集めている。
サラサのブランド売り込み作戦は見事に大当たり。
俺たちに貴族女性が殺到したが、そこで待ってましたとばかりにサラサが対応した。
サラサはユリナさんに負けず劣らず綺麗だったので、全員が貴族令嬢と勘違いしているようだ。
まあ商売のことはサラサたちに任せて俺はゆっくりさせてもらおう。
「ユリナさん、あっちで踊らない?」
せっかくの機会だ。俺はユリナさんの手をとってダンスを楽しむことにした。
俺たちは日頃貴族勤めを経験したメアリーさんから厳しいダンスレッスンを受けた甲斐あって、とちることなくワルツ一曲を踊りきれた。
ここでもユリナさんは衆目を集めていた。ユリナさんは出産を経た今でも美しいことが俺の密かな自慢だ。
ダンスが終わるとあまり面識のない貴族たちに話しかけられた。
その殆どがボーラシュ平野の開発や他国との貿易の状況などを質問し、最後に「では一度商隊を率いて伺いますね」と言われ話が終わった。
適当に切り上げつつ、「あとは部下の者が伺います」とサラサやアイリスに丸投げする俺であった。
ターニャとアッシュはちびっこたちに囲まれていた。勇者と神獣はやっぱり人気者のようだ。
貴族どもとの話に疲れて休憩しているとゲルニカ様が現れた。
一際高い場所にある王族席にゲルニカ様とその家族が並ぶと弦楽隊の演奏が止まった。
「皆の者よく集まってくれた。ハイランデル王国との戦争で疲弊した国土の復興心から感謝する。今日はささやかだが皆への労いの場を設けさせてもらった。長い挨拶は不要。心行くまで楽しんでいってくれ」
ゲルニカ様が短く挨拶した後拍手が沸き起こり、弦楽隊が今度はアイリッシュ調の軽快な音楽を奏で始めた。
曲調と会場の雰囲気が変わったところで、俺もメアリーに指示しお土産のスパークリング日本酒というちょっと珍しいもの出すことにした。
するとそれを飲んだゲルニカ様からお呼びがかかった。
俺はメアリーさんたちに目配せ、セトを抱いたユリナさんを連れ陛下の元に向かったのだった。




