k-360
現実逃避を試みる俺だったが、現実は厳しいようだ。
混沌はさらなる混沌へと誘われていく。
クソみたいな罵倒の応酬を続ける我が領の頭脳、サラサとアイリス。その片割れアイリスパパのディーンさんが颯爽と登場した。
「アイリスお祝いの席でみっともない真似はやめなさい」的なことを、紳士風の口調で言いアイリスの頭をステッキで小突いた、というか結構重たい音がした。
「アイタ! とーちゃん、何するのにゃ!」みたいなことを涙目で言い猫耳が垂れるアイリス。見た目が猫だけに、やりとりがなんか和む。
さらにそこへ酒臭いサラサ父アランさんが登場。牧畜バトルブルの串揚げを両手に持っている。
「なあケイゴ。俺にもこの肉の商売かませてくれねえか? 貸し忘れたわけじゃねえよな?」みたいなことを言い肩を組んできた。
とりあえず何言ってるかわからないふりしとこう。
するとサラサが「パパやめてみっともない!」的なことを言い、今度はアランさんがショックを受けるターン。
アランさんはサラサに「サラサ、パパはみっともなくないぞ! 小さい頃はパパと結婚するって言ってたじゃないか!」的なことを。
しかしサラサは「もうやめてよパパ! 気持ち悪い」的なことを言う。
慟哭のサラサ父。絵に描いたような 《orz》 だ。
そこへユリナさんと手をつないだターニャがやってきて、場はさらにカオスへと誘われる。
「アイリスよしよし。アイリスもいい子にしてたら王子様と結婚できるんだよ! ボーイフレンドできちゃうかもね〜!」的な言葉を元気いっぱいぶん投げるターニャ。
どうやらターニャはユリナさんから何かを吹き込まれたらしく、ションボリ中のアイリスの猫頭をなでなでした。
動揺アイリス。耳がピンと立ち顔がトマトみたいに真っ赤に。
「あ、ボーイフレンドいるんだ」と、その場の全員が思った。
その中でただ一人、目が怜悧なナイフのように鋭くなる人物が一人。そう、アイリスパパのディーンさんだ。
「どれ私の剣の錆になりたい不逞の輩は何処かね?」的な不穏な言葉を発しながら仕込み杖を光らせている。
そして、英国紳士っぽい装いからシャーロックに見えなくもない名探偵ディーンによる秘密国家警察も真っ青な脅迫紛いの強制捜査が始まった。合掌。
さらにさらに、エルザとジュノのそばには背後霊……、じゃなかった。
エルザ父のバラックさんがリストラされたサラリーマンのような哀愁を漂わせていた。
どうやら式の最中の叫び声はバラックさんのもので、娘のチューにハートブレイクしてしまったらしい。娘を持つ父親の心構えが足りないのは、どこの世界でも一緒らしい。
だがここで、事前に予告していたザックのサプライズプロポーズが始まった。舞台に上がりユリファの花を掲げ意気揚々と宣言する法衣貴族になったばかりのザック。
がんばれ!
だがお相手はなんとアイリスとのこと。なんだって!? 全員の視線がアイリスに集まる。再び沸騰したヤカンのような顔になり、静かに頷くアイリス。
うおおおおお!
盛り上がる歓声。ここにカップル誕生だ。でも何かを忘れているような気がするぞ?
すると「まちたまえ!」と普段出したことのないような怒気の孕んだ声でザックに決闘を申し込む一人の漢。アイリスパパのディーンさんだ。
あまり子供には見せてはいけない表情をしていらっしゃる。
だがザックも負けてはいない。冒険者ギルド(イトシノユリナ支部)ギルドマスターの肩書きは伊達じゃない。バイエルン様から酷い目にあわされ続け鍛えられたメンタルは強靭だった。
ザックは正々堂々ディーンさんの決闘を受け、見事花嫁を勝ち取ったのだった。
ザック、アイリス、お幸せに!




