k-329
敵軍がバラン砦を解放した “誘い” に乗ったように見せかけるため、ランカスタ王国軍は進軍することになった。
例の怪しい人物は表準子爵軍の中に居て、敵部隊(伏兵)を手引きする役割を担っているようだった。
なので裏準子爵軍の役割としては、ランカスタ軍の背後を狙う伏兵を軍に食らいつくタイミングで急襲・殲滅。諜報員の正体を暴き捕らえる、ということになる。
そして今、俺たち裏準子爵軍は敵の伏兵に襲い掛かれ位置に身を潜めていた。
秋雨の視界の悪い中、山中に身をひそめる裏準子爵軍。
こちらの斥候兵やホワイトさんの伝書鳩、スパイ蜘蛛の視覚共有能力を使って敵の位置や動きは把握済み。
敵は今、街道を挟んで逆側の山中に潜んでいるようだ。どうやら撤退すると見せかけて、山中に伏兵を忍ばせていたようだ。
伏兵の兵種も大体把握済みで、アンデッドを召喚する死霊召喚士、スピードタイプの暗殺者、諜報能力重視の斥候兵で構成されているようだった。
予め敵の兵種が解っているので、こちらもアンデッドやアサシンの毒対策、スピードを殺すような対策を打った。
聖属性攻撃魔法、解毒魔法、遅延魔法などが使えるものを多めに裏男爵軍に入れたのだった。
そしてようやく好機がやってきた。
ランカスタ王国軍の殿で、表準子爵軍にいるホワイトさんから狼煙が上がったのだ。
これは敵が行動に出たときの合図だ。
動物は獲物を仕留める瞬間にこそ、隙が生まれるという。
それと同じで、敵部隊が表準子爵軍に襲い掛かるまさにその瞬間の隙を突こうというわけだ。
この作戦は、スパイ蜘蛛やハトとの視覚共有能力によって一番早く敵の動きを察知できるホワイトさんだからこそ出来る芸当だった。
「……全軍今だ! 計画通り敵伏兵の無警戒な背後に食らいつけ!!」
俺は押し殺した声とともに剣の切っ先を敵に向け、裏準子爵軍に全軍突撃を命じたのだった。




