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「お前、ひょっとして……」
部屋の片隅で保温器に入れていた卵を見ると割れていた。
あれからホワイトさんの指示で一日3回朝昼晩と魔力注入し、保温器に入れて孵化するのを待っていたのだ。
どうやら目の前のキュイキュイ鳴いている子犬くらいの大きさの不思議生物は、卵から孵化したばかりのベヒーモスのようだった。
目をキラキラさせたベヒーモスベビーはアッシュの隣でお座りして「なでて~」とこちらを見上げているだけなので危険はなさそう。
「いきなり魔眼とか使うなよ?」
阿波踊りを踊りながら石化みたいなハメにはなりたくないからな。
恐る恐る手を伸ばして頭を撫でてみたら、のどを「クルル」と鳴らして喜んでいたよ。
のども指でさすってやると、ゴロゴロ。カワイー。
成体ベヒーモスの上半身はイカツイ竜の鱗で覆われていたけど、生まれたばかりの赤ちゃんは何もかも未発達でプニプニしていて可愛い。
今度はアッシュが「ぼくも!」とフンフン言い出したので、アッシュの頭もナデナデ。
はあ……、幸せ……。
「……おっといかんいかん」
あまりの可愛さに脳が蕩けてしまったようだ。
「そういえばコイツ何食べるんだろ……?」
試しに漬け汁から取り出した新鮮なホタルイカを皿に入れ与えてみたらハグハグと美味しそうに食べたのだが、これで大丈夫なのかわからない。
するとアッシュが右手で俺の足をタシタシしたので、もう一皿をアッシュの目の前においてあげつつ。
「そういえば名前がいるよな……」
ベヒーモスだから真ん中とってヒモちゃんとか? うーん、ヒモ男みたいでイマイチ。
半獣半竜、ビーストドラゴン……、
「ビードラとかどうかな?」
名前を言うとベヒーモスベビーは短い手を上げてキュイキュイと嬉しそうにしたのでビードラで決定ということで。
「よろしくな、ビードラ」
俺はそう言ってビードラの頭を撫でたのだった。
その後沖漬け作りを再開したら、俺の足にタシタシカジカジとアッシュとビードラがお邪魔攻撃。
テーブルの上に飾り物に丁度いい大きさの魔竜晶(ベヒーモスのブレス技とグラシエスノヴァの爆発エネルギーを吸った水晶)を置いていたので、それを下に置いたら大人しくなったよ。
ホワイトさんにビードラのこと相談しなきゃだな。




