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町の名前かあ……。
名前なんて正直どうでもいいと思っちゃうんだけど、どうやら領主自らつけるものなのらしい。
通常は奥さんの名前を付けるらしい。
こちらの言葉で「愛してる+奥さんの名前」みたいな感じの名前がスタンダードらしいのだけど、日本男子的な感覚でいうとそんなこっぱずかしいことはできん。
サラサとマルゴが「愛してるユリナ」にしないの? とニヨニヨしながらあからさまに冷やかしてくるのがムカツク。
だが郷に入らばの精神も大事なのでこちらの文化を全否定するのもねえ……。
そこで日本語で「愛してる」の意味の言葉にし、対外的にはバレやしないので別の意味の言葉だと説明すればどうかと思い付いた。
丁度いい日本語がないかだけど、日本語で「アイシテルユリナ」。
……語感がちょっと微妙。
何か丁度いい言葉ないか。
その時、ふと俺の頭に夏が似合うあの国民的バンドの音楽が流れてきた。
愛しのサリー、イトシノサリー……。
「あ、思いついた。イトシノユリナ!」
「ソレイイワネ! イトシノ、ドウイウイミ?」
サラサもユリナさんの名前が入っていることに大満足のようで、ジェスチャー混じりでどういう意味かと聞いてきた。
俺は「リスペクトしているって意味さ!」とサムズアップしながら誤魔化しておいたのだった。
俺とサラサが極めて不毛なやりとりをしている最中、テイラーさんが何かを紙に書いていると思ったら、ヴォルフスザーン男爵家の紋章を書いてくれていた。
ヴォルフスザーンは狼の牙を意味するだけに荒々しく強そうな紋章になるのかと思いきや、子狼が蝶々を追いかけてピョンピョン飛び跳ねている、ファンシーで可愛く、とびきりオシャレな家紋が出来上がった。
その旗を先頭で掲げて敵と戦うことになるマルゴとジュノが渋い顔になったけど、サラサやアイリス、テイラーさんが大盛り上がりしているところに水を差すのも悪いと思ったのか、ダンマリを決め込んだようだ。
女性陣の機嫌を損ねると後が怖いことを知っている俺は、マルゴとジュノに倣ってファンシーな家紋については反対しないことにしたのだった。




