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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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 自分にはまだ、こんなにもやる気があったんだと驚かされた。



 勤めていた商社の会長には「奥田には欲がねえ」とよく言われたものだ。会長は何でも器用にこなす俺にそう言って目をかけてくれた。



「今から俺は、先月20億で買ったビルを40億で売る商談をしてくるぞ? 血沸き肉躍るとは思わんか? ああん? ……奥田、もっと目をギラつかせろ。商売は武器もたねえで戦争してんだぞ!!」



 会長はそんなことを俺に言って、闘魂を注入してくださった。



 今思えば、会長は人間の本質を見抜く才能がある人だったんだなと思う。


 自分でも欲がなく、それが究極まで行ってしまい抜け殻のようになってしまったという自覚がある。



 逃げるように会社を辞めてしまった俺には、本当に会長に会わせる顔がなく申し訳ない。




 最近異世界でもビジネスっぽいことを始めるようになって、自分のこれまでのことをよく考えるようになった。



 今まで俺は、何か一つのことに夢中になるタイプの努力をしたり、やる気を出す人間ではなかったように思う。



 いつも周りから一歩引いて距離を置き、冷めた目で見ていた。



 80点まではとるけど、それ以上の100点を目指すとなるとコスパが悪いから、全科目80点アベレージを目指した方がいい、みたいな。



 そんなズル賢い自分を矮小だなと思いつつも、それでそこそこ結果が出るんだからいいんじゃね? と達観したつもりになっていた。



 だから俺は、何か一つのことに信念をもって取り組むことはできなかったんだと思う。



 でも、今思うとそれが間違いだったんだ。



 一本だけだがこれというものに全てを割いて頑張っている人、何かの分野で高みを目指す人には、そんなマインドで勝てるわけもなく。



 いつしか俺は仕事に対する情熱を失い、さらには人間社会の中で生きることを億劫だと感じるようになっていた。




 でも、こちらの世界に来てからは自分の中の何かが変わった。



 こちらの世界に来てからは、とにかく命の危険があった。生きるために必死で考え行動しなければ普通に死んでいただろう。



 そんなことを繰り返すうちに俺は前向きになり、良い意味で欲が出てきた。



 自分がすることで、周りが喜んでもらえるのだという実感がもてた。



 そして今度は、ユリナさんやターニャが苦しんだ問題と向き合うことになった。



『この仕事に本気で取り組めば、もっと多くの人に喜んでもらえるかもしれない』



 そんな風に思えるようになった。




 そして、そう思ってからの行動は早かった。



 今日で丁度バイエルン様のところに計画書を持ち込んでから一週間ほど経ったのだが、バイエルン様以外にもギルドや町議会など方々を巻き込んで解決の方向に動いていた。



 町の主要なところを押さえたのが良かった。


 話はトントン拍子に進み、土地はエルザの父であるバラックさんから「そういう目的なら喜んで」とエルザの宿屋の裏手にある土地を譲り受けたし、建物建築は建築家のテイラーさんが無償で協力してくれた。


 商業ギルドや冒険者ギルドは人員提供という形で協力してくれた。毎日銀貨50枚分各ギルドが負担し、ギルド員や冒険者を派遣してくれることになった。



 協力してくれたのはお金持ちたちだけじゃない。


 マルゴたちがハインリッヒに追われた俺を助けるために作った組織「蒼の団」は、バイエルン様の意向で自警団組織として存続することになったそうだが、彼らも俺のプロジェクトに全面協力してくれることになった。


 「蝶のゆりかご」のジョセフィーヌさんたち、露店で串焼きを売っているような顔なじみのおっちゃん、おばちゃんまで協力してくれた。



 あとはそうそう。


 ハインリッヒの手勢に襲われたときに協力してくれたモヒカンたち。途中で別れたままだったけど最近レスタに戻ってきたみたいだったので、彼らにもこの話を持ち掛けてみたよ。


 どうやら協力してくれるようで、男手は少しでも多い方が助かるのでありがたい。



 この非営利社団法人をはじめるにあたり(会社の概念は異世界にはないけど)、スタートアップ資金は俺が出した金貨1000枚に有志で集まった支援金を加えると金貨1600枚に到達したのだった。



「なんか会社の名前でもつけた方がいいかな、子狼つながりで何か……」



 俺はそのスタートアップ企業に「子狼の里」とそれっぽい名前を付けることにした。



 会社は営利と非営利で一応分けられているけど、近江商人の商売哲学で「三方よし」という言葉があるくらいだ。


 社会に貢献すればするほどその会社は成長するという点では、その本質は大きく変わらないんじゃないか。


 世に多くある会社だって、「金さえ儲かればなんだっていい」なんて考えている企業は、いずれ誰からも支持されなくなるはずだからな。



 そして今回俺が立ち上げたプロジェクトは、巡り巡って多くの人の利益になるはずだと思っている。



「だから、頑張らざるをえないよなあ」



 自分一人だけで生きているなら、家のソファーでゴロゴロしながらポテチかじりつつ一日中ゲームでもしている方が楽だし幸せなんだが、気が付いてしまったものは仕方がない。


 こういうことは気が付いた人が始めるべきだと思うしな。




 今、エルザの宿屋の裏手にある「子狼の里」の土地ではテイラーさん主導で建物の着工にとりかかりつつ、サラサが手配してくれたティピーのような形状の仮設テントを設置している最中だ。



 この後こちらのテントにスラムの子供を呼び込みつつ、ギルドの人たちの助けも借りて、どうにか暮らしていける形がとれればと思っている。



 今もまだまだ寒さが厳しい。


 ターニャのように寒さや飢えで倒れる者もいるだろう。


 だからこの活動はきっと無駄にはならないはずだ。

 みなさんこんにちは。ここまでお読みいただきありがとうございます。


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