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入社歓迎会翌日はお店の定休日ということで、ターニャ、ユリナさんと一緒に、二人が暮らしていたというスラム街に行ってみることにした。
スラム街に立ち入るには、いかにも高そうな服は着ない、金目のものは持ち歩かないなど気をつけないといけないことが結構あった。
治安が悪いので、武装もしっかりと。見た目だけでも抑止になるそう。
アッシュは人懐っこく誰にでもついていき、秒で誘拐されそうなのでユリナさんが抱っこ。
ターニャは俺が手をつないで歩くことにした。
過保護すぎるかな?
さて、徒歩で辿り着いたスラム街は町のメイン通りから外れた裏側、日陰みたいな場所にあった。
俺はしばらく歩いただけで、気分が悪くなってきた。
汗や汚物が混ざり合ったような異臭。人や建物の距離感が近く圧を感じて不快指数が高い。
道端に掘っ立て小屋のようなものを作って座り、こちらを何ともいえない目で見る人。
何年も放置されているだろう廃屋。
人の死体こそ転がっていないが、ここでは命は滅茶苦茶軽いというのが二人の言葉だ。
死体は衛兵がどこからともなくやってきて、火葬場に運んでいくらしい。最低限の疫病対策といったところか。
ここはみんなにとっての必要悪を押し込めたような場所、臭い物には蓋をしろ的な場所。
俺にはそうとしか思えなかった。
自分より下の人を見ると安心するという人の性質を利用し、支配者は身分制度による差別を人心のコントロールに利用したみたいな話を歴史の授業で勉強したけど、バイエルン様たちが意図的にやっているというよりは貧困が招いた自然発生的、無意識的なもののように思えた。
……ユリナさんやターニャの事情を差し引いても、こんなもの放置しておくべきじゃないな。
治安がよくなれば、スラム街の外に住む連中だって快適になる。犯罪に向かっている負のエネルギーを労働に参加させれば町全体の経済も上向く。
スラム街の問題を解決することは、誰にとっても有益なはずなんだ。
「ありがとうユリナさん、ターニャ。よくわかったよ」
「「??」」
「まあ、みててよ。こういうのは誰かが動けば意外と解決できるもんなのさ」
スラム街を見学した後、俺は不思議そうな顔をする二人にそう言ったのだった。
それから俺は昼食もそこそこに、スラム街の問題を解決する計画を練るため一人工房の机に紙を広げたのだった。




