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k-1

「ここは……どこだ? 」




 俺の名前は、奥田圭吾おくだけいご。35歳。


 とある財閥系の商社に勤め、東京を拠点にシンガポールやオーストラリアなどを飛びまわり、海外から石炭を輸入するという仕事をしていたが、年末ジャンボ宝くじで10億円に当選。嘘みたいな本当の話である。


 金の心配をする必要がなくなった俺は、いつも上から目線でノルマを叫ぶクソ上司に辞表を叩きつけた。


 そして、その帰り道。橋の上から携帯電話をぶん投げた。上っ面だけの、あまりにも作り物めいた、吐き気のする人間関係に終止符を打った瞬間だった。


 最高の気分だったと言いたいところだが、どこか哀愁も入り混じる気持ちだった。


 気がつけば俺の目の前の景色は歪んでいた。自然に涙がでたのはいつ以来なのか覚えていない。


 社畜社畜と愚痴をこぼしていた俺だけれども、金のためだけに働いていたわけではないことに、会社を辞めてから気がついたのだった。



 ◇◇◇



 会社を辞めた俺は、北海道の田舎町に離農した家を買い上げ、趣味で農業をやりつつ、ネットで美味い物を取り寄せるという生活を送っていた。


 ちなみにSNSで通話できる友人はただ一人しかいない。どれだけ人間嫌いなのかと自分に突っ込みをいれたいところである。


 なお、親にはハガキというアナログな手段で一言「農家をやることにした。心配しないでくれ」とだけ伝えてある。



 そんなある日のできごとだった。


 鶏の世話をしようと、朝食前に鶏小屋兼、農具小屋に入り鶏を鶏小屋から出そうとして、一緒に小屋から出たら、景色が一変していた。


 まず、あるはずの母屋がない。近くに森、そして、草原。遠くに町のようなものが見えた。

 

 そして、遠くで人が何かに何かを振りかぶり攻撃しているように見える。


 とりあえず、困惑する頭を落ち着け、鶏を小屋に戻す。


 遠くに人が居たのでとりあえず、話を聞いてこようと思う。


 何かと戦っているようにも見えたし、このような異常事態である。用心するにこしたことはないだろう。


 農具小屋なので、クワ、草刈り鎌、剣先スコップなどがある。


 とりあえず、俺は『剣先スコップ』と『草刈り鎌』を持ち出して小屋に鍵をかける。そして、何かと戦っていると思しき人にそっと近付く。


 そこには、1メートルくらいの小さな、そして人ではない何かと剣を持って戦う人が居た。その人ではない何かは、「ギギギ……」と耳障りな声を発し、赤い目、緑の皮膚、尖った鼻や耳という特徴を有していた。


 そして、貧相な皮の服を身にまとい、棍棒片手に剣をもった男を威嚇していた。


 男の持つ剣は余裕で刃渡り1メートルを超え、いかにもな鎧を着こんでいる。両者から発せられる生々しい殺気を伴う威嚇と死の気配が俺の首筋を撫でる。



 どうやら、俺は異世界に来てしまったらしい。


 なぜなら、俺はファンタジー小説やRPGゲームが大好きで、この生物をよく知っている。おそらく、『ゴブリン』というモンスターだ。


 相対する剣士は冒険者といったところか。



 比較的冷静でいられたのは、その知識があったためでもある。


 良くわからない場所に来ている。目の前にモンスターが居る。その結果、『異世界に連れてこられた』という答えに行き着いた。


 目の前に冒険者らしき屈強な剣士とゴブリン。


 そして俺の手には剣先スコップと草刈り鎌。



 ……ご期待に沿えず申し訳ない。


 とりあえず俺は逃げた。それはもう猛ダッシュで。鼻水と涙を出しながら逃げた。



 いやいやいや。無理でしょ。あんな恐ろしいモンスター。普通に怖いって。俺は善良なる一般市民ですよ。



 ――そこのあなた、剣先スコップでモンスターと戦えますか?




 俺は、小屋に逃げ戻り、中から鍵を閉めたのだった。

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― 新着の感想 ―
「――そこのあなた、剣先スコップでモンスターと戦えますか?」 ゴブリン、気が付いてなかったんだから、スコップで後ろから首を狙って刈り取ったらよかったと思うな。
[良い点] >とりあえず俺は逃げた 数多の作品では幼児が狼やら猪など倒してるのが、実に滑稽なんで好感もてます。 現実問題、そこらの中高校生が野生の大型犬とタイマンで勝てますか?→無理です。
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