k-148
「辛いなら止めても良いんだよ。逃げたいなら逃げても良いんだよ。私は泣くかもしれないけど、それでもあなたのことを愛しているわ」
彼女は俺にそう言った。俺はこんな人がいるのかと思った。
彼女は俺の気持ちなんて全てお見通し。
人間嫌いな俺の性格なんて全部わかった上で、全部込みで俺のことを受け入れてくれた。
逃げ道も用意してくれた。
彼女は俺の全てになった。
まるで奇跡だ。
こんな人に、俺は出会ったことがない。
彼女を泣かせないために俺にできることは、せいぜいこんな風に紙に書いて気持ちを整理することくらい。
いつまた独りになりたい、放っておいてほしいという衝動に駆られないとも限らない。
でも彼女との関係においては、もう絶対に大丈夫だという確信があった。
孤独を感じるような、辛い夜。
俺はきっと彼女に抱きしめられ、圧倒的な多幸感の中安心して夢の中に誘われるだろう。
俺はもう、彼女なしでは生きられない。
彼女が死ぬ前に必ず自分が盾となって自分が犠牲になる。
そうすれば、彼女は生き残る。
そんなことを言うと彼女は怒るかもしれないが、絶対にその方が良い。彼女は悲しいで済むかもしれないけど、彼女がいないと俺はきっと死んでしまう。
自分にとって、愛するとはそういうことなのかもしれない。
俺は料理が得意だ。
この世界で沢山料理をしてきた。美味しい料理を、沢山彼女に食べさせてあげたい。彼女の笑顔が見たい。
俺の人生の全ては、彼女のものだ。俺は彼女が笑顔を絶やさないように、今日も美味しい料理を作ろうと思う。
彼女は編み物が好きだ。俺は部屋を暖かにするために、今日も薪を割る。
俺が書き物をしている間、彼女は編み物をする。
ゆっくりと流れるこの時間は、俺と彼女にとってかけがえのない時間だ。
お互いこのまま年をとって、おじいちゃん、おばあちゃんになっても、毎日彼女に愛していると言っているはずだ。
だから俺たちはもうきっと大丈夫。
二人で生きて死ぬ。
ただそれだけのことさ。




