k-144
18:00
マルゴたち4人とユリナさんが馬車に乗り込み、レスタの町に帰る。
寒そうに震えるユリナさんが心配になった俺は、毛皮の掛布団を持ってきて彼女を包んであげた。
恥ずかしそうに日本語で「アリガトウ」とユリナさんが言う。
俺が片言のランカスタ語を覚えるように、彼女も片言の日本語を覚えてくれている。
なんだか嬉しい。
そして、ユリナさんは名残惜しそうに何度もこちらを見ながらマルゴたちと一緒に馬車で町へと帰っていった。
俺は雪がチラチラと降る中、彼女の乗った馬車が見えなくなるまで、ずっとその場に立ち尽くしていた。
「へっくし!」
俺は盛大にくしゃみをする。
アッシュウルフのマントで体を包んでいたものの、大分体温を奪われたようだ。
「クーン」
アッシュが俺を見上げて、心配そうな鳴き声をあげる。
「大丈夫だよ。さあ、おうちに入ろう」
俺は、小屋のドアを開ける。
ふわっと居間の暖気が俺とアッシュを包む。
「静かだ……」
ポツリと俺はつぶやく。
先ほどまでのにぎやかさが嘘のようだ。
そして心にふっとアレがやってきた。
寂しいという気持ち。
恋人に会いたい。
親友たちと馬鹿騒ぎをしたい。
一人でいるのが嫌だ。
――俺は馬鹿だ。
一人の時間が何よりも大切? はっ、笑わせる。誰よりも寂しがり屋なのが、俺なんじゃないか。
「くそっ!」
俺は行き場のない気持ちを投げ捨てるかのように、バサリとベッドにマントを投げ捨てる。
ユリナさんは今頃どうしているだろうか? 酔った男たちを上手くあしらうのは慣れているだろう。
しかし、下心丸出しの野獣どもが彼女の体をなめまわすようにジロジロ見ているところを想像すると、本気で耐えられなくなる。
むしろ、殺意すらわいてくる。
俺は右手で頭をかきむしりながら、部屋の中を熊のように行ったりきたり。ウロウロする。
「彼女の仕事に口出しをするのはよくない。しかし……」
俺のよくわからないことをブツブツ言っている無様な姿を見て、アッシュが呆れたようにフンと鼻を鳴らす。
気がつけば俺は、ベッドの上に投げ捨てたアッシュウルフのマントを再び身につけユリナさんが働くレスタの歓楽街へと馬車を走らせていた。