モノローグ・ユリナ1
私はユリナ。
レスタの町の歓楽街で働いている。ママのお店は小さいけれど、みんな家族のように温かい。
私には辛い過去があった。
父親の暴力が酷く、私と兄は毎日全身アザだらけだった。母は、父親の暴力に耐えかねて、私が7歳の頃に自殺した。
兄のセトは私の手を引いて、暴力の吹き荒れる家を飛び出した。
そして私たちはスラム街の孤児となった。
私たち兄妹は物乞いや窃盗をするしか生きる術が無かった。兄は病気がちの私に自分より多くの食べ物を食べさせてくれた。
私が病気で熱を出した時、兄は私をキシュウ先生という町一番のお医者様のところに連れて行ってくれた。
たぶん治療がなかったら死んでいたと思う。それほど私は衰弱していたのだ。
兄は、治療代をどこで手に入れた物なのかは絶対に言わなかった。兄は「全部お兄ちゃんに任せろ!」と歯の抜けたまっすぐな笑顔を私に向けてくれた。
でも所詮知恵も体力もない子供。私たち兄妹にもついに限界が訪れた。
兄が病気に倒れたのだ。
兄が死ぬまではあっという間だった。生きる術のない私は路上で痩せこけ、死を待つしかなかった。
あまりにも貧相不潔な格好をした私を人攫いすらも手を出すことはなかった。
だが、救いの手は差し伸べられたのだった。
「あんた、名前は? うちに来るかい?」
そう言った屈強な女性は痩せ細った私を抱き上げた。歓楽街で夜の店を経営しているジョセフィーヌさんだった。
私は応える気力もないまま、彼女にされるがまま運ばれた。
彼女に拾われた私は、まともな食事を与えられ、衛生的なベッドで休むにつれ、段々と回復していった。
そして、混濁する意識がまともになり、声もきちんと出るようになると、優しい彼女に私は。
「お兄ちゃんが……、お兄ちゃんが……」
私はジョセフィーヌさんの胸で泣いた。お兄ちゃんが死んだときは泣く気力すらなかったのに、なんでかな?
それはたぶん、安心したとたんに涙があふれて出してきたのかも。
彼女は黙って幼い私の頭を撫でてくれたことを、今でも鮮明に覚えている。




