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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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モノローグ・ドニー1

 俺はドニー。バイエルン様直属の雇われの兵士で兵士長を務めさせていただいている。


 俺はバイエルン様の館前で門番をしていた。あまりにも暇すぎて自然とあくびが出る。いかんな、気を引き締めねば。


 それにしても眠くなる仕事だ。何せ立っているだけで、何も起こりやしない。それが一番なのはわかってはいるのだがな。


 俺は自然とケイゴオクダの家で食べたサシミという料理のことを思い出す。


 あれをもう一度食べたいなあ……。俺はあのプリプリとした食感を思い出し、生唾を飲み込む。む、いかんいかん気を引き締めねば。


 俺は無理やりにでもキリッとした顔になる。


 すると噂をすれば何とやらで、そのケイゴオクダが荷馬車でやってきた。ケイゴオクダはバイエルン様との面会を求めている。何用だろう?


 バイエルン様は今頃冒険者ギルドの魔術師ハン様とアフタヌーンティを楽しんでいらっしゃる。


 ハン様と医師のキシュウ先生にはバイエルン様の心の病の治療でお世話になっており、今はハン様の問診後にお茶を楽しんでいる最中だ。


 俺はケイゴオクダに少し待ってもらい、バイエルン様に許可をもらう。ケイゴオクダはハン様とも面識があるようで、是非にと同席の許可が下りた。


 ケイゴオクダを厩舎に案内し馬車を停めた後、バイエルン様の執務室まで案内した。


 執務室のドアをノックして中に入る。俺は執務室のドア横に立ち、会話の邪魔にならないよう様子を見ることにした。


 「ケイゴ。良くきてくれた。まずはかけたまえ」

 「アリ、ガトウ」


 相変わらず異国人らしい彼の言葉はたどたどしかった。。


 ケイゴは豪華な応接セットのソファーに腰掛けると、カバンからビンを取り出しテーブルの上に置いた。


 そして、紙にペンでサラサラと何かを書いてバイエルン様に見せた。


 するとバイエルン様が目を見開いて驚いたので、俺とハン殿も我慢できずにその紙を見させてもらった。


 するとそこには……。


 【エギルの回復ポーション:体力回復(大)、部位欠損修復】


 とあった。重要なのは『部位欠損修復』という記載だ。そのようなポーションがあると話には聞いたことがあるが、実際見るのは初めてだ。


 王家御用隊の最高級錬金術師の店なら、もしかすると一本手に入るかどうか、といったレベルのものだろう。


 バイエルン様がケイゴオクダに勧められるまま、そのポーションをおそるおそる手にとりゆっくりと飲み干した。


 すると、右腕が光の粒子が集まるようにして修復した。まるで魔法だ。いや事実魔法薬なのだ。こんなことがあるのか。俺は思わず神に感謝の祈りを捧げた。


 「ドニー。金貨の大袋を持ってきなさい」

 「はっ!」


 俺は金庫番にバイエルン様の書き付けを見せ、金貨2000枚の詰まった大袋を大至急執務室へと運んだ。


 ケイゴはいらないというジェスチャーをする。何という無欲な男だ。忠誠を誓うバイエルン様を二度も救った男。俺にとっても大恩人となった瞬間だった。


 バイエルン様に腕だけではない変化が現れた。


 なんと腕を失ったショックで白髪となりハゲあがった頭が、若かりし頃のように黒くフサフサした髪へと蘇ったのだ。


 頭髪に悩みを抱える貴族は多いと聞く。場合によっては金に糸目をつけないとも。このことが知れると厄介なことになることは間違いない。


 にも拘わらず、ケイゴオクダはハン様にまで貴重な部位欠損ポーションを渡してあげていた。どうやら彼はその薬の価値をわかっていないようだ。


 ハン様はレスタの町を守るため左半身をモンスターの毒でやられ義足義眼の状態。長くその状態だったので、もう治らないと本人も考えていたに違いない。


 でも意を決したハン様がポーションを飲むと、欠損した目と片足が光とともに修復された。本日2度目の光景だが、何度見ても感動する。


 だがここではたと気が付く。


 ケイゴオクダがこの凄まじい効果をもつ魔法薬の製作者だと知れれば、今後どのような目に遭うのかわかったものではない。


 なので私は「ここで起きたことは他言無用。遠方から来た流れの治癒師が治していったということにしましょう!」と御三方に提案した。


「む……言われてみれば確かにそうじゃな、ハン? 吾輩らはこの部屋では何も見なかった。ケイゴオクダは今日この屋敷には訪れていない。それでよいな?」


「バイエルン様の仰せのままに。私も実力を隠すため魔法を使いフェイクで義眼義足のふりをしていたと周りに吹聴しておきましょう。それで薬のことが疑われることはありますまい。ケイゴオクダ、今後私はお前に対する支援を惜しまない。初級魔法なら特別にギルドポイントなしに教えてやる。いつでも冒険者ギルドを訪ねてくるといい」


 会話の内容がわからない様子のケイゴオクダに俺が紙で書いて教えてあげると、ケイゴオクダは神妙な顔つきをして頷いた。


「それとこれは我輩からのお願いなのだが、余りもので良いのでエギルの回復ポーションを譲ってほしい。これを必要としている貴族の友人が多数いてな。もちろん高値で買い取らせてくれ」


 ケイゴオクダ少し思案した後、バイエルン様の依頼を快諾してくれた。


 そしてこの部屋では今日何も起きなかったことになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな異世界生活悪くないなと小並感。 じわじわと面白いです。 禿げたっていいじゃない、人間だもの。 楽しく読ませていただいております。 ありがとうございます。
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