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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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k-132

 朝起きて、大分寒くなってきたなと感じる。いったん布団をめくるが、やっぱり寒いから嫌だと二度寝をする。


「眠れなかったにしては調子いいかも……」


 頭がスッキリしているのは、よく眠れた証。二度寝も別に寝不足で体調が悪いわけではなく、単に寒いので怠けて布団でゴロゴロしたいだけ。健康なのは良いことであるな。


 ようやく起床した俺は、居間兼寝所に設置された暖炉に薪をくべ、ファイアダガーで火をつける。


 暖かな温もりが、ゆっくりと優しく部屋に浸透していく。ウッドの床がより温もりを感じさせる。


「はぁ〜、あったけえ……」


 俺は切り株椅子を暖炉の前にもってきて、しばらく火にあたりボーっとする。


 桶にたまった冷たい水で顔を洗い、歯を磨く。家から出たくないな……。


 もともとインドア派だった頃の俺が、ぬっと顔を出す。


 ユリナさんからもらった暗色系の服は、結構厚手だ。これから寒くなるに連れて、厚着をするのに使える。本当にありがたいプレゼントだ。


 とりあえず、俺は家畜とアッシュにエサをあげる。


 自分も干し肉とパン、果実ジュースというメニューを小屋の中で暖炉を背にしながら食べた。


「今日はダラダラしよ」


 俺は、切り株椅子に座りながら、家の中でも支障とならないライトとアイスの魔法の練習をすることにした。


 光の玉は、任意の方向にだんだんと動かせるようになってきた。


 アイスは飲み物に入れることは勿論、鳥刺などの生モノを氷の上に盛り付けるのに使えそうだ。


 居間の外に燻製キットを置き、卵、チーズ、シカ肉の燻製を作る。


「さぶっ」


 俺はそうつぶやきながら暖かな家の中に戻る。きっちりと時計を見て燻す時間をはかる。


 薪は、このところ大量に作っていたのでかなり備蓄がある。冬に向けて、食料や酒も多めに仕入れておかないと。


 あとは、雪が降るとなればコート的なものも欲しいところだ。毛皮製品なら、サラサの店で取り扱っているだろう。


 でも今日は暖炉に当たって過ごす。そう決めた。俺にはそういう時間が必要だ。


 特に何もせず、ボーっとする時間。


 毎日色々な人に気を使っていると、頭がパンクしそうになる。


 何もしないと言っても、紙に書き物はしている。思いついた考えをまとめたり、詩や物語などを思いつくまま書いていく。


 もちろん、実用的な新しい植物や動物、モンスターの鑑定結果があればその場で書きなぐったものをジャンル毎に整理もする。A型っぽいけど俺はO型だ。基本俺はおおらかで寛容なのだ。


 今はモンスターのことを書いた紙片の記述を整理しているところだ。居間の中は暖炉とランタンの明かりで十分な明るさがある。



 ……



 ずいぶんと書き物が捗った。


 時計を見ると、ずいぶんと遅い時間まで作業していたようだ。集中できていた証拠だろう。


 さっそく俺は出来上がった燻製を肴に、赤ワインもどきであるミランの果実酒でやりはじめる。


 試しに氷の魔法でロックにしてみたら格段に美味しく感じられた。これは良い。北海道人が、真冬に25℃の暖房が効いた室内でぬくぬくしながらバニラアイスを食べるみたいな贅沢な感じがする。


 俺は、暖炉にゆっくりと薪をくべる。アッシュが暖炉の脇で気持ちよさそうに丸くなっている。


 こうして、暖かく静かで穏やかな時間は過ぎていく。自己中心的になっても誰が咎めるわけでもない。


 俺が一番好きで大切にしている凪の時間だった。

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