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k-131

 今日はなぜか中々眠れない。俺は布団の中で悶々とする。


 本当は原因はわかっている。ちょっと他人を心の中に踏み込ませすぎたからだ。心を許してしまうと、裏切られた時のことを考えるとダメージがでかくなる。俺は基本的に他人は自分がコントロールできるものではないと考えているので、むやみやたらと人に干渉することはない。むしろ人間に対してどこか諦めがある側の人間で、できるだけ人に対して無関心を貫こうと決めている。


 そんな俺がだ。人を好きになることなど許されるのだろうか? という罪悪感がある。恋愛をするということはお互いに心を許すということ。今日俺は彼女に心のかなりの部分を許してしまった。その反動である不安が今襲ってきているに違いなかった。


 こうしていつも一人になると、頭の中で今日あった出来事と過去あった出来事が連鎖的に化学反応を起こしてしまう。


 眠れなくなると俺はその思考プロセスをたどって、どうにか帳尻を合わせることでしか、均衡を保てない。だから俺は思考が化学反応するにまかせ、特に邪魔したりはしない。


 そんなものはいずれ疲れ果てれば終わりが来る。眠ることができる。そう信じて体を丸めてやりすごすのだ。



 遅刻は殺人と同格の罪。不意になぜかそんな言葉が頭に浮かんだ。


 どこで聞いた言葉だったろうか。何かのビジネス本で読んだ言葉だったのかもしれない。その心は、遅刻は相手の時間を奪う行為なのだから、寿命を奪うに等しい行為だということだったはずだ。


 俺はいつも相手に気を使って生きてきた気がする。でも一人の時は、当然ながら誰にも気を使わない。なので、その落差が激しい。自己中心的になれるのはいつだって一人のときだ。


 他人はたいてい自分よりも自己中心的で。


 俺は人といるときいつも振り回されていてばかりだ。つまりは、俺は他人といるとき寿命奪われ続けている状態だったのかもしれない。社畜時代なんかはまさにそうで、貴重で有限な資源であるはずの自身の自由な時間を俺は会社に奪われ続けていたと感じる。


 絶対人とつるまねえ、と考えて北海道の農家に引きこもった理由がそれだ。


 会社が忙しすぎて家族の側にいられる時間が減った。祖母の古希祝いを親戚でやることになったのに、仕事で参加できなかった。転勤で遠隔地に飛ばされ、ペットの死に目に立ち会うことができなかった。


 会社に自由な時間を奪われてさえいなければ、そんなこともなかったはずだ。


 では俺はなんのために働いていたのか。がむしゃらに働くこと自体が自分のアイデンティティ、お金ややりがいがあってこそなんて考えが浮かぶけど、それは違うんじゃないかと大切なものを失ってみて初めて考えを改めた。


 そして時間はもう巻き戻らない。取り返すことなどできない。


 でもマルゴ、ジュノ、サラサ、エルザはまた別だ。


 互いに振り回したりはしない。実際は振り回されているのかもしれないが、そういった感覚はない。


 ビジネスの関係も一応あるのかもしれないけど、俺の場合言ってしまえば、「趣味で手芸品をつくったら、たまたま買ってくれた」という程度のもの。拘束、あるいは自分の自由な時間を奪われている感じは全くしないし、むしろ彼らと過ごす時間は充実しているとすら思う。


 なので、俺の時間は彼らに奪われてなどいないと思う。


 ユリナさんのことを、俺はどう考えているのだろうか? 


 今のところ、少しも振り回されているという感覚はない。人の気持ちを汲んでくれる、本当に優しい人だと思う。



 そうか、寿命を奪われるんじゃない。


 寿命をお互いに奪い合い、寿命を共有するという感覚をもてる相手こそが、運命の相手なのかもしれない。


「運命の相手ってたどりついた結論がそれかよ……」


 一匹狼を気取っていた自分からロマンチック極まりない単語が飛び出したことに、思わず苦笑。あまりにも馬鹿馬鹿しくなり全身から力が抜ける。


 気がつけば俺は、深い深い眠りについていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 俺から見た商売女は1:1 だが。彼女から見た客は1:100なので。。。痛い。 物語の都合上あっさり結婚の流れになりそうで辛い。
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