k-123
女性たちと店先で別れを告げた俺たち三人は、マルゴの店に向かって歩き出した。
マルゴとジュノが俺に白い歯をニカッと出し、「よくやった」のサムズアップサイン。そっか、きっと二人は俺のために飲み屋さんに誘ってくれたんだろうな。にしてはマルゴがバーサクの状態異常にかかっているように見えたけど、きっとそれもこれも全部俺のため、ということにしておく。ジュノはちらちらと俺の方を時折気にして見てくれてたからな。
一人では絶対にこのような場所に来ないであろう俺は、ユリナさんと引き合わせてくれた二人に感謝した。
不意に。
突然アッシュが俺にとびついてきた。
あー、よしよし。アッシュは世界一可愛いな。俺は、アッシュを抱き上げモフモフした。
酔いが回っていい気分になっていた俺は、世界一可愛いアッシュを抱き、よりよい気分になる。
ん……? 待てよ? なんでアッシュがここにいるんだ?
それと同時に、嫌な汗がドッと出る。
目線を路上に向けるとそこには般若が二体、不気味なほど静かに佇んでいた。
それはサラサとエルザだった。
――さ、アッシュ。俺たちは帰ろうな? 俺は現実逃避を試みる。
ギンッ
しかし、それは許されなかった。
帰る素振りを見せた俺は、サラサの一睨みで釘付けにされてしまった。まるで蛇に睨まれたカエル…、いやコカトリスの石化の視線だ。
そういえば、飲み屋さんに行くと言って、サラサにアッシュを預けたっけなぁ……。その時点で、バレていたのか……。はぁうっかりうっかり。
それから俺、マルゴ、ジュノの三人は、サラサ鬼軍曹とエルザ死刑執行官の手でマルゴの店に連行されたのだった。
……
サラサ鬼軍曹とエルザ死刑執行官の前で、正座する俺たち男三人。
大の大人が正座……。悲しいことこの上ない。
アッシュがもの悲し気に「クーン」と鳴いた。
ギンッ
これまでずっと不穏な沈黙を保っていたサラサ鬼軍曹の釣りあがった目が俺を向く。
「○×▽、◆○×?」
疑問形の強い口調だった……。ひぃ……。
きっと、第三者である俺の証言を求めているんだろう。
しかし、俺は黙秘権を行使することにした。首をブンブンと振る。おいら、仲間を売るわけにはいかねぇ。
それから、恥も外聞も投げ捨てて、正座の姿勢から頭を床にこすり付けて謝るマルゴとジュノ。
それを見たサラサ鬼軍曹とエルザ死刑執行官の表情が少しだけ和らいだ。
しかしほっとしたのは束の間、事件は起きる。
アッシュが、何かオモチャを見つけたときの、イタズラっ子の目つきとなった。
そして、マルゴの上着から垂れているヒモをグイグイと引っ張って、何かの物体をサラサ鬼軍曹の元へと持っていったのである。
俺は、その物体を凝視する。そして、ようやくその物体の正体に気が付いた。
ザ・○ールド!
その瞬間、ピシリという音とともに全世界が凍りついた……ような気がした。
それは、『女性用胸部下着』。いや漢字に変換したところで1ミクロンも許してもらえる要素にはならない。
ここはストレートに言って謝った方が、許してもらえる芽が少しはあるかもしれない。
そう、それはブラジャーだった。
サラサ鬼軍曹はまるで汚物を扱うかのように、アッシュから物証を取り上げると、不自然なまでの極上の笑顔になった。
サラサ鬼軍曹がマジギレしているのは明らかだ。正直言ってめっちゃ怖い。美人って怒ると怖いのよね。
サラサ鬼軍曹は、アッシュの頭をヨシヨシとなでてから抱き上げ、俺に渡してきた。そして、帰ってよしのジェスチャー。
急速に青い顔色になっていくマルゴ。ジュノもエルザ死刑執行官の疑惑の視線を受け真っ青になっている。
うん、ここで俺にできることは何もないないな。マルゴとジュノは二人には謝り倒すしかない。ここは勇気ある撤退あるのみ。
俺は閉じたドアに向かって「なーむさんだー」と謎のお祓いの呪文を唱え、マルゴの店から立ち去った。
俺に抱っこされたアッシュが嬉しそうに尻尾をフリフリしていた。