k-110
翌朝、早くに目が覚めすぎた。時計を見るとまだ午前4:00だった。
昨日散々石壁に安心しきって、だらだらと眠っていたせいだろう。
俺は、湯を沸かしマーブル草のハーブティをいれ、焚き火にあたりながら、ズズっと飲む。
夜明け前の貴重な時間。寝静まってひっそりとした時間は結構好きだ。
皆が眠っていて、自分だけが起きている。
眠りに落ちる前の時間と、皆が寝静まっているこの時間は、色々と考えをまとめるのに最適だ。
俺は考える、ジュノのこと、マルゴのこと、サラサのこと。ついでにバイエルン様のことも。
ジュノはもうサラサのことを諦め、次の恋を探しているだろうか。
ジュノは格好良いから、町の女たちが放っておかないだろう。
マルゴとサラサはどうなっただろうか。
俺の見立てでは、先日マルゴはサラサの猛攻から逃げていたようだったが、いつまで続くのやら。ゴールインは近いと俺は見ている。
バイエルン様は、きっと何かがあったのだろう。でなければあのように性格が一変してしまうというようなことは、考えられない。
自身の右腕を失ったことと関係しているのかもしれない。
バイエルン様の謝罪を受け入れ、迷惑料として頂いたお金はこうして石壁になって俺の生存率を上げるのに貢献してくれている。
もう恨みはない。
それよりも、バイエルン様の息子のハインリッヒ様とやらが、町の実権を握っているということが気になる。
関わる気は毛頭ないが、バイエルン様が頼ってこないとも限らない。
そうなったら、仕方がない。俺にできる限りのことはしようと思う。
清流のように、自分のまわりの人間のことについて、考えがサラサラと上流から下流へ流れていく。
ダン、カイ先生、ハン先生、キシュウ先生、解体屋のオッチャン、バイエルン様の護衛をやっているドニー、石壁を作ってくれた職人たち。
焚き火の揺らめく炎をぼーっと眺めていると、他にもこの世界に来てから出会い世話になった人たちの顔が次々と浮かんでは消えた。
アッシュについても、もう出会って二ヶ月は経つだろうか。
一向に成長する兆しを見せず、世界一可愛いままだ。この世界特有の生物だからなのかもしれない。
今、アッシュは俺の布団で小さくなって丸まって眠っている。
知らずに俺の顔が、だらしなくほころぶ。
俺は少しアッシュに弱い。
こちらの世界に来た当初よりも、日が短くなってきている。これから秋が来て、その後冬が来るのかもしれない。
もっとも、石炭や薪で暖をとれば良いだけのことなので、冬はあまり心配していない。
むしろそうなったら雪見風呂が楽しみである。
……もうそろそろ朝だ。
今日は川で風呂の水を調達しつつ、暢気に釣りでもしようかなと考える。
川魚の塩焼きを想像すると急に腹が減ってきた。
朝日がのぼり、コケコッコーと鶏が鳴き始める。
さて、今日もまたチルな一日を過ごそう。