k-105
翌日、昼下がりのことだった。
チビリチビリとやりながら、燻製卵とスモークチーズを作っていると、アホ貴族がやってきた。
警戒する俺。
また何の無理難題を突きつけられるのか、わかったものではない。
しかし、おかしいな。いつものように冒険者をゾロゾロと連れて来ていない。
今日は護衛の兵士一人だけしかいない。
俺はもみ手でヘコヘコしながら、アホ貴族の顔色を伺うと、アホ貴族は何やらとても申し訳ないという表情をしながら、何かを言い頭を下げてきた。
ん? 今ランカスタ語で「ゴメンナサイ」という単語が聞こえたぞ。空耳か?
護衛の兵士が重そうな袋を俺に渡してきた。
金貨500枚と言っている。確かにそれくらいの重みがある。
1枚1枚数えると確かに500枚あった。しかし、俺は警戒を解かない。
これで何かをしろと、言いかねないからだ。
しかし、アホ貴族はこれは迷惑料だと言った。そして何度も俺に謝ってきた。
そうか。とても信じられないが、この人はアホ貴族から、まともな貴族様にジョブチェンジしたらしい。
そういうことなら仕方ない。俺は、とっておきの燻製卵とスモークチーズを出してやることにした。
皿に、マーブル草のハーブと一緒に燻製を盛り付け、酒と一緒にテーブルに並べてあげた。
パク……。
貴族様は目をひん剥いて何か言っていた。よく見慣れた反応だった。
立ちっぱなしの兵士にも同じように燻製と酒を振舞ってあげたら、同じく目をひん剥いていた。結局、三人で焚き火を囲って酒盛りに突入した。
俺は言葉はわからないが身振り手振りを使って、貴族様と色々話した。どうやら息子に家督を継いだらしい。
町の中では、俺が知らない間に色々あったようだな。
二人は燻製が非常にお気に召したようだ。
今朝、野ウサギがアンクルスネアにかかっていたので、ニンニクと塩とハーブをすり込んで味付けをし、丸焼きを作ってあげた。
彼らは目をひん剥いて、食べていた。
アッシュは自分の分が無くなると思ったのだろう。「クーン」と悲しげに鳴いた。
大丈夫。お前にも残してあるよ。
俺はアッシュのお皿にも野菜と肉、燻製を入れてあげた。こら、野菜を残すんじゃない。
兵士の彼はドニーというそうだ。
二人は前後不覚になるほど酔ってしまったので、鍛冶小屋に泊まって行くことになった。
俺は小さく鍛冶小屋の炉に火を入れて、藁布団を二人分敷き詰めて寝てもらった。
あ。ムレーヌ解毒草の『シメのスープ』を飲ませるのを忘れた。
この分だと明日は昼までコースだな。
ふあとアクビをした俺は、体の汗を濡れタオルでふき、歯を磨いて眠ることにした。




