モノローグ・バイエルン4
我輩はレスタ・フォン・バイエルン。
我輩はレッサードラゴンに襲われ右腕を失った。
何もかもが怖くなり自室から出ることができなくなった。
せめてもの慰みとして、最愛のメルティちゃん(馬)の石像を自室に置くことにした。
周りは自分のことを狂ったと評価しているだろう。
だが、そのようなことはもはやどうでも良い。
むしろ、自分を見つめ直すことができた。
狂ったという自覚は自分ではない。ただ何もかもが怖くなっただけだ。
人前に出ると手が震える。
まともにテーブルについて食事ができない。
右腕がないから、上手く食事ができない。
使用人たちにあざ笑われている気がする。
夜ベットに入っても、ドス黒い負の感情が頭の中を循環する。
――この世から消えて無くなりたい。
――みんな死ねばいいのに。
そして気がつけば朝をむかえ、ついに電池が切れ気を失ったように眠りにつく。
自室に引きこもることであらゆる出来事に敏感になった。
例えば外の天気、季節の変化、使用人たちの表情や態度の変化。
夜中に全員が寝静まった頃、部屋を抜け出し家の周りを散歩していて、今までどうでも良かったことが気になるようになった。
狂った自分と狂う前の自分。本当に狂っていたのはどっちの自分なのだろうか。
…
……
………
我輩の名前は……何であっただろうか。自分の名前さえもスラスラと言えなくなってしまった。
鏡を見ると頬は痩せこけ、目の下にはクマができている。酷い顔だ。
酷い顔だと認識できるだけまだマシなのかもしれない。
眠れなくなってどれだけ経つのかもわからなくなった。
我輩の心の拠りどころは石になったメルティちゃん(馬)だけ。
使用人たちの態度も以前に比べ素っ気ないものになってきているように思う。
ある時、石化を解くことができるという術師が現れた。心配したシュラクが手配してくれたそうだ。
なんとメルティちゃん(馬)の石化が解け、元気な姿に戻った。
我輩はその場で泣き崩れた。
我輩は以前よりも、病状が回復していた。
なんと、日中でも部屋から出て、メルティちゃん(馬)のいる厩まで出かけることができるようになったのだ。
我輩は心に太陽の光が降り注ぐような感覚を覚えた。
だんだんと睡眠もとれるようになった。
まだ、テーブルに座って食事をとったり、使用人と顔を合わせるのは苦痛だ。
それでも、我輩の心はだんだんと癒されていった。もう大丈夫だと思う。
狂う前の自分、狂った後の自分、そして今の自分。これだけは断言できる。今の自分は狂ってなどいないと。