昔の話
私は、前世ではいじめられていて、さらに父親がDVをする人で、家庭内は崩壊状態だったけど、母は気が弱くて父から逃げられず、暴力を振るわれ続けていた。
また、私もその暴力の対象だった。
だから私はゲームの世界に逃げた。
ゲームの世界の私ならこんなに幸せでいられる。そう思って、いろんなゲームに没頭していった。
そうやって現実逃避をしていたが、まあ、結果として私は生きるのが嫌になり自殺した。
もう、生きたくないと思ってしまったのだ。
だというのに、なぜ私はまた生きているんだろう。
また自殺すればいいかと思いきや、今回の世界ではいい親にいい友達、さらにはいい環境に恵まれてしまいどうしても離れがたいという意識が奥底にできてしまった。
死にたいのに死ねない。
そんな矛盾を抱えていた当時6歳だったある日、私の目の前にペストマスクをつけた黒猫が宙に浮いて現れた。
突然のことに驚き固まっていると、その猫が話しかけてきた。
「やあやあ!初めまして、新しくプレイヤーに選ばれた加藤 香織ちゃん!僕の名前はナビゲーター!よろしくね!」
「は、はぁ…。」
私はその不思議で不可解な光景に、茫然として気の抜けた返事をしてしまった。
「むぅー、なんだいその気の抜けた返事は!せっかく君にとって素敵なゲームに参加する権利を得られたというのに!」
「私にとって素敵なゲーム?」
その言葉に、私は首をかしげるばかりだった。
だって、この意味不明な光景から、私にとって素敵なゲームというものが想像できなかったからだ。
だが、それは次の言葉で覆された。
「そうだよ!君は素敵なデスゲームの参加者に選ばれたんだ!その名もなんと『ダンスマカブルゲーム』!」
「デス、ゲーム。」
「このゲームに参加する条件はたった一つ!叶えたい願いがあるのにどうやっても叶えることができない願いを持つ人だ!」
「!!叶えられない願いを持つ人…。」
「だってそうだろう?君は、死にたいけど死ねない、でも死にたいなんてとっても矛盾している願いを持ってるじゃないか。」
私はナビゲーターに指摘され、ドキッとした。
なんで誰にも言っていない願いを、この猫は知っているのだろう。
でも、でも、もしその参加条件が本当なら…。
「そう、君が考えた通り、このゲームで勝った者は願いをかなえる権利を得ることができるんだ!」
「本当!?」
私はナビゲーターの言うことに飛びついた。
だって、それなら、私の願いをかなえることができるということだ。
死にたいけど死ねない、けど死にたい。
どうせなら、事故死であればなおいい。
それならみんなに迷惑をかけずに、罪悪感を抱かずに死ねる!
「本当も本当。ただし、君の願いを叶えるには、すっごく多くのポイントが必要なんだ!」
「多くのポイント?」
「そう!願いを叶えるには、それ相応のポイントが必要になるんだ。」
「それはゲームに勝てばもらえるの?」
「そうだよ!しかも、相手に勝てば、相手の分のポイントも手にすることができる!すごいでしょ?」
「じゃあ、どんどん勝っていけばいいのね。」
「そんなに簡単な話じゃないんだけどなぁ。さっき言った通り、これはデスゲーム。相手に勝つということは、相手を殺すということ。覚悟はある?」
「…。」
私はそのことについて深く考えていなかった。
死ぬために誰かを殺すなんておかしい。
あれ、でも、戦いであえて負けて死ねばいいのでは?
そう思った私は、ナビゲーターに尋ねてみた。
「戦いであえて負けて死んでも、私の願いはかなうんじゃないの?」
「そう考えると思ってた!残念ながらその考えはー、ハズレ!!」
「どういうこと?」
だって、戦いであえて負けてしまえば死ねるのでは?
そう思った私は、聞き返した。
「君はね、今徳を積んでるんだよ。」
「徳?」
「そう!所謂善行を行ったらその分魂に加算されていくものなんだ。それが君は多いから、今回はすぐに転生してしまったんだ。だから、今見た限りだと、それを相殺、いや超えるくらいの悪行をしないとまたすぐ生まれ変わってしまうんだ!」
「そんな…。」
私は知らずに徳を積むという行為をしてしまっていたことに驚いた。
そういうのって、もっとすごいことをした人についているものだと思っていたから。
こんな一般市民でも徳を積めるなら、すごい人はもっとすごいんだろうな。
「だからこそ、このゲームだよ!」
「どういうこと?」
「このゲームで勝つには、相手を殺すしかない。つまり、悪行をたっくさんするんだ!それがポイントになって表れて、しかも君の願いを叶える権利がどれほど必要かまで教えてくれる!素敵でしょ?参加したくなった?」
ナビゲーターの言うことに、私は納得してしまった。
例え、それが非道なことでも、自分の願いがかなえられるために必要なことを知ってしまったから。
私の心は決まった。
「参加するわ。」
「ほんと!」
「ええ、参加して、絶対に死んでみせる。」
「うんうん、その意気だよ!それじゃあ早速、君に能力をあげよう!」
「能力?」
「そうだよ、戦うといっても、これはゲーム、ゲームらしい特典がないとね!じゃあ、はい、どうぞ!」
差し出されたナビゲーターの手のひらの上に一つの光の玉が浮かんでいた。
私は手を伸ばし、それを受け取った。
その瞬間、私の脳内に力の名前、使い方、どうすればもっとその力が強くなるかなどの情報が一気に流れてきた。
突然のことに私は、頭を抱えた。
けれど、すぐさまそれも収まり、体になじんだ。
「なにこの能力。嫌味?」
「違うよー!何の能力になるかはその人の適正によるんだ!君の場合は面白いことになったけどね!」
「死を操る死神、ね。」
「死にたいのに死を操るなんて、面白いなぁ!それじゃあ、僕はこれで!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
「なんだい?」
「どうやって対戦相手を見つけたらいいの?」
「それは出会えばわかるさ!」
「そう、それまで秘密ってわけね。」
「ふふふっ、それじゃあまたね!」
そう言ってナビゲーターは目の前から消えた。
そして、私はこの日から無敗の女王に駆け上がっていった。
そう、女王。
私は幼いころから勝ち続け、無敗の女王、血濡れの女王なんてあだ名がプレイヤー内でつけられてしまったのだ。