ショッピングモール
週末の土曜日。
私たちは、藍を尾行するため、二人が行く予定のショッピングモール前で待ち合わせていた。
まだ私しか待ち合わせ場所にはいないため、スマホをいじっていると、翔がやってきた。
「あれ、俺が一番だと思ったんだけど。早いね香織。」
「おはよう、翔。うん、私が一番乗りだったみたい。」
「なんか悔しいなぁ。」
「別に競ってるわけじゃないんだから…。」
「ま、それもそうか。」
二人で雑談をしていると、美和とあかねが一緒に来た。
「あれー!もう二人ともいる!結構早めに出たつもりなのになぁ。」
「あかねが約束の時間に遅刻してなかったら、私たちが一番だったかもね。」
「う、それはごめん。だって、着ていく服に迷っちゃって。」
「私たちがデートするわけじゃないのに?」
「でも、お出かけの時はおしゃれしたくなるじゃない?」
「それはそうだけど…。」
「ね、香織もそうだよね!」
「いや、私は着やすい服なら何でも。」
そういった瞬間、二人にじっと頭からつま先まで見られた。
そのあと二人は顔を見合わせると、うなずきあった。
「うん、シンプルすぎ!」
「もっとかわいい服も似合うのに!今日ショッピングに来てよかった。似合う服選んであげる!」
「私も、ぴったりの服選んであげるね!」
「えぇ…。マジですか…。」
「「マジです!」」
声をそろえて言われたものだから、ちょっと引いてしまった。
翔には少し哀れんだ目で見られていた。
そうこうしているうちに、残りの一人だった圭介がやってきた。
「おまたせー!みんな早いな!」
「だって楽しみだったもの。」
「というより、約束した時間ギリギリなんだけど。」
「もうちょっと早く来る気はなかったのか?」
「いやいや、間に合ってるからいいだろ。」
「まあ、遅刻してないからいいけどな。」
今回は遅刻ではなかったので、圭介におとがめはなかった。
皆がそろったので、私たちは目的の人物を探した。
すると、すぐにその人物は見つかった。
藍ちゃんだ。
1人ショッピングモールの前にある時計塔のふもとで待っていた。
腕時計を見て、時間を気にしているようだった。
一人で待っていた藍に話しかけてきた男性がいた。
「君、さっきからずっと1人でいるけど、誰かと待ち合わせ?」
「え、はい。」
「そんなに待たせる相手ならほっといて、俺と遊ぼうぜ。」
で、でたー!ナンパイベントだ!
確かこれは、デート相手が遅れ来るときにおこるイベントで、かばってくれる攻略キャラがかっこいいため、人気のイベントだ。
「いや、あの私は待ってる相手がいるので。」
「だから、そんなに待たせる相手なんてほっとこうぜ。俺とならもっと楽しい遊びを教えてあげるからさ。」
男は藍の手をつかもうとしたその瞬間。
横からその手を止める手が伸びてきた。
「あの、嫌がってる相手にそんなことするのはどうかと思いますけど。」
「あぁ?なんだお前。」
「彼女の待ち合わせ相手です。」
「ちっ、なんだ男だったのかよ。彼氏ならちゃんとそういえよな。」
そういって、男は立ち去って行った。
水城君は、藍の正面に立ち謝ってきた。
「ごめん、俺が遅れたせいでこんな目に合わせて。」
「ううん、いいよ特に何もなかったし。」
「でも、手をつかまれそうになっただろ。俺が遅れていたらどうなっていたか。」
「それは、本当に助けてくれてありがとう。」
「い、いや、当然のことをしただけだからな。」
藍の笑顔と感謝に顔を赤らめる高橋君。
「それじゃあ、買い物に行こうか。」
「うん!」
高橋君は、颯爽と藍ちゃんの手をつかみ、ショッピングモールの中へと入っていった。
いやぁ、さすが攻略キャラ、かっこいいな。
「かっこいいね!高橋君!」
「ああ、男としても見習いたいな。」
「はぁー、やっぱり尾行しようって提案してよかったー!」
「こら、大声出さない。それじゃあ私たちも中に入ろうか。」
「うん!」
そうして、私たちもショッピングモールの中に入っていった。
二人はいろいろなお店を見て、ショッピングを楽しんでいた。
もちろん、尾行する私たちも見お店の中を見て楽しんでいた。
服屋に入った時なんて、私はずっと美和とあかねに着せ替え人形にされ、翔と圭介はその採点役をしていた。
ゲームの中では、短い会話のみしかなかったが、現実ではたくさんのお店を回って、お昼を一緒に食べて、またお店を見て回るというすごく充実した一日を過ごしていた。
私たちも今日一日満足して帰ることができると思ったその時。
すると、スマホから音楽が流れ、それが流れ終わるとナビゲーターの声がした。
『対戦相手が現れました。対戦を承認しますか?』
スマホの画面を見て私たちは、すぐさま「はい」をタップした。
『対戦が承認されました。フィールドを展開します。』
その音声が流れた後、周りから人がいなくなり、ショッピングモールに残されたのは私たち5人と、相手の5人だけになった。