鳥羽池高等学校
私は、この学校に最初は通う気はなかった。
親に勧められた学校の名前を見たとき、思いっきり乙女ゲーム「君との日々、恋する私は。」の世界だと気づいたから。
私は、前世の記憶を持ってこの世界に生まれてきた。
大した記憶なんてなかったけど……。
でも、好きだったゲームや漫画、アニメのことは鮮明に覚えていた。
だからこそ、ただの現代にまた生まれ変わったと思っていた私にとって、この事実は衝撃的でしかなかったけれど。
中学生の時友人たちに、それとなくこの学校行くのやめようかなぁと話していたら、いや私たちも行くから行こうよと言われ、押し切られてしまったのだ。
その友人たちとは、今も仲良くしている。
全員クラスは違ってしまったが、今でも集まって遊んでいる。
1年生の頃は、4人の友人のうち2人と一緒のクラスで、しかも主人公の藍ちゃんとも違うクラスだったから安心していた。
関わることなくこの3年間過ごせそうだとホッとしていた時もあった。
でも、2年生になって同じクラスになってしまったときは絶望した。
主人公と同じクラスで、しかもみんなと離れ離れになってしまったから。
最初は席が遠かったけど、席替えがあって隣の席になってからはめちゃくちゃ話しかけられた。
「神しあ」のことを知ってて、まさかめちゃくちゃ詳しくて熱弁されるとその時は思っていなかったけど、ああ、この子もちゃんと1人のこの世界で生きている人間なんだなって思ったら少しずつ忌避感もなくなっていった。
いまではまぁ、恋に関することも相談される間柄だ。
正直恋とかしたことないから、友人枠の子に相談してくれって感じだけど。
しかも、藍ちゃんは私に攻略対象キャラの人たちを紹介するのだ。
友達なんだー、同じアニメが好きなんだーって堂々と言う。
キーホルダーとかつけるの恥ずかしがるくせに、そこは堂々としてた。
もともと、私があんなにイケメンで有名な人たちと仲がいいなんてすごいねと思っていたことをぽろっとこぼしたのがきっかけだった。
そのことを言ったとき、藍ちゃんはすぐにこう切り返してきた。
「彼らも1人の人間だし、私たちと何ら変わりないよ。異性同士でも友情は成り立つんだから。」
と言い切ったのだ。
今まで別次元だと思っていたから、そんなことを言われ、目からうろこが落ちた。
確かに彼らも1人の人間だ。
イケメンだとしても、その中身は私たちと変わらない高校生なのに、やはり容姿で差別をどこかでしてしまっていたんだと実感した。
でも、私の中で消えたいという感情が沸き上がる。
これは絶対になくなることはない。
だからこそ、私はたまに端っこで一人でいようとしたり、距離を置こうとするがそれもなかなかうまくいかない。
……心のどこかで、藍ちゃんのことを否定しきれない自分がいるし、それを私が切り捨てられないとわかっているから、藍ちゃんが近づいてきたらあきらめてしまうのだけれど。
そういう時は、流されるまま、日本人らしく過ごそうなんて切り替えている。
この学校は、オタクに対して忌避感はなく、受け入れて話を聞いてくれる人、まあ意地の悪い人がいないいい学校だ。
私は今ではこの学校に入学してよかったと思っている。
「香織ちゃーん!次の授業体育だから着替えないと!急ご!」
「うん、今行く。」
今日は友人たちと集まる日だ。
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放課後
「香織ちゃん、図書館行こう。」
「あ、ごめん、今日は友達と集まる日だから。」
「…それって、あの非公認のグループ活動のこと?もー、やめなって言ってるじゃん。生徒会長の伊藤先輩が最近気にしてたよ?」
「うわぁ、マジか。何とか言い逃れできないかな。」
「いや、無理でしょ。非公認で勝手に集まってやってるんだから。」
「他の人たちもやってるじゃん。」
「そうだけど、夜中に外で見かけられてるってのがあるから、余計に注目されてるんだよ。夜中に活動なんてやめたほうがいいよ、危ないし。」
「それは、ごめん。でも行くね。大事な友達なんだ。」
「そっか……。じゃあ、またね。」
「またね。忠告ありがとう。」
少ししんみりした気分になったが、切り替えて図書館へ行った。
図書館につき、いつもの席へ行くとメンバー全員がすでに集まっていた。
「遅くなってごめん。私が一番最後だったか。」
「いいよ、そんなに待ってないし。」
「そうそう、前の圭介が大遅刻した時よりぜんっぜんいいって。」
「その時は謝っただろ!」
「何その態度、反省が足りないんじゃなーい?」
「いや、ほんとにすみませんでした。」
「ならよろしい。」
そこで待っていたのは、木村 美和、山本 あかね、井上 翔、林 圭介の4人だった。
今日もこの5人で集まり、町で遊んで家に帰る。
それが私たちのメンバーでいつもやっていることだ。
さっき香織ちゃんが夜中に見かけたなんてことも言われていたが、そんなのはたまにだ。
いつもじゃない。
今日も楽しく一日が過ぎていく。