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に。

目下の心配ごとは、食事である。


転生したためか、思い出したときにはあんなにたくさん入っていたはずの収納魔法(ストレージ)の中身は空っぽで、ぐうぐうとお腹が鳴っている現在どうすべきか思案していた。

前世の収納魔法(ストレージ)の中身が持ち越しだったら、大好きな料理人の手料理が食べられたのに。あの美味しい食事を味わえないかと思うと、さらに食べたくなる。ああ、またおなかが鳴った。


母親であるはずの彼女は「あ、約束が」と呟いて、こちらの顔も見ずに出掛けてしまった。化粧をしていたので男のところかもしれない。いつ戻るかも聞ける様子ではなかった。気は楽であるが、食べ物の入手には困る。

彼女の前の男はマメでアイラにもお菓子やパンや玩具などいろいろお土産をくれたものだが、今の男はアイラを空気のように扱っている。そのせいか食生活だけでなく、彼女のアイラへの態度も以前より悪化してる気がする。男のいないときでも空気のように扱われているからだ。前世でも付き合う男によって性格の変わる女はいたが、それが母親だと本当に、最悪だ。

母親が冷蔵庫と呼んでいた食糧保存庫には、幼児には相応しくないアルコール飲料ばかり入っていた。他にはなにかの白い卵と白くてひょろひょろとしたアニモ草に似た芽が1パック、あとは調味料の類いが入っていた。

アニモ草は芽の時に注いだ魔力により、違う効能の薬花に育つ特殊な薬草だ。新人の頃に魔力を注ぐ仕事を死ぬほどやった。もう見たくないヒョロ芽だが、これしか食べるものはなさそうだ。

キッチンはアイラの身長には高すぎる。私は台になりそうな箱をキッチンまで引きずってくる。そんな作業も、この痩せた小さな身体には重労働だ。


「汚っ……! 」


水場とおぼしきスペースには洗われていない食器や、食べかけの何かが入った使い捨てのカップが一杯になっている。使い捨てのヤツは何度か食べさせて貰ったから分かる。お湯を入れてしばらく待つと麺が出来る魔法食だ。仕組みが分かって我が国に持ち帰れたら良いのにと……出来ないってことを理解してても、つい思ってしまう。

とはいえ、これはすでにごみだ。数日前に食べた残りはさすがにお腹を壊すのは分かりきっている。

引き出しから黄色いごみ袋を出す。大家と言う大柄な女性が彼女を叱ってるのを見かけたときに知った、ゴミを出すときのシステム。この袋にゴミをつめて"火"という暦のときに出せば怒られない。「このジチタイは子育て支援でタダでゴミ袋貰えるでしょう?」と大家が言っていたから、本来はこの袋は有料なのだろう。子育て支援というものがあって、きっと得するから彼女は私を捨てないんだなあと納得した。この半透明の袋も、原料はわからないがスライム製品であってもここまで――中身が見えるくらいに透けるほど――薄く作るのであれば凄い技術であるし、恐らく高価なゴミを処分する魔道具の一種なのだろう。

ゴミ袋に捨てて良いものと、生ゴミを入れて念のために滅菌(オートクレーブ)の魔法を使う。暦はてれびの番組表でしか見れないが、"火"まで3日あるので匂いがしたら嫌だからだ。この魔道具は匂いにまで作用しないのは、以前にビックリするくらい臭くなったから実感している。お陰で滅菌(オートクレーブ)は前世を思い出してから一番使っている魔法だ。

そうでなくとも、この家はあまりに汚くて臭い。

トイレやお風呂などの魔道具システムは素晴らしいのだが、掃除をしないと意味がないと思う。魔力が豊富な私だから出来る臭い取りだ。


「次こそは――洗浄(クリーン)かな。あ、でも―――」

滅菌(オートクレーブ)は臭いの元を殺すことは出来るが、汚れ自体は取ることが出来ない。食器などを綺麗にするには洗うのが一番なのだ。

ただ、魔法を使う前に「てれび」の「しーえむ」でしていた、食器洗剤をつかった洗浄を試してみようと思った。

「泡が汚れを落とすのか。クリーンの原理ってこれだったのかな。魔法の原理を魔法のない世界で知るって、私は魔術師として勉強不足だったかも。」

予想外に、食器を洗うのは楽しかった。汚れがすいすいと落ちて行くのだ。豊富に出る水は、かなりの魔力を持った魔道具なんだろう。あんなにあった泡が全て流れていった。

そのままシンクも綺麗にし、食器の水分を水魔法で飛ばして食器棚にしまう。食器棚も乱雑だったため、揃えて重ねるなど綺麗にしまい直す。並ぶと綺麗に見えてくる。ついでに食器棚のガラスも拭いて、綺麗に並んだ食器を見るだけで満足感を得られる。なんだかにんまりと笑ってしまう。

そうなってくると、壁やダイニングなんかも気になってくる。ごみ捨て、いらなそうな「タオル」でテーブルと床を拭き、手紙か請求書かよく分からない書類はお菓子の空き箱――紙で出来ているがとても綺麗な色で捨てられなかったのだ――に入れて捨てないように分けておく。

ダイニングって言うには小さなテーブルだが、造りが良いものに見える。汚れを落とすと綺麗な色をしていた。


「洗濯はこの魔道具を使うんだよな。ちょっと使い方が怪しいけどどうにかなるでしょ。」

洗濯物を魔道具に入れて、たぶん洗浄の粉と思われるものを入れた。「しーえむ」だとこの辺を押していた……とオレンジのところを押すと、魔道具が動き出した。たぶん間違っちゃいなかったのだろう。中で洗濯物がくるくると回っている。覗いていたら目が回りそうだ。



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