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おっさんのごった煮短編集

玩具になる

これはフィクションです。

実際にはこんなことはありません。



 何と無くだった。

 仕事の合間や休みの空き時間にネット小説を読むようになった。昔は書籍を買って来て、図書館で借りて、そんな風に紙媒体の本を読んだりもしたが、時間も無ければ、そこまでして読みたい作品も無いし、ネットニュースを見てもオススメに出るのは似たようなものばかり、スマホゲーも飽きてしまったら、結局は適当なサイトでネット小説を読むのに落ち着いた。


 十代の頃は作家を目指していたこともあった。

 才能なんて、からっきし無いなと見切りをつけてから早20年もたって、今更に小説家になりたいなんて思わないけれど、ここなら、誰に気兼ねなく作品を投稿出来るなと、本当に何と無く作品を投稿した。


 最初の作品には作品に感想を書きに行ったりして交流のあった作者さんが読みに来てくれて、感想もくれた。たいしてポイントも伸びなかったし、感想も数件だったが、ひとつもポイントもつかなければ、感想も来ない作品もあるのだ。それに比べて僅かでも評価されたことが素直に嬉しかった。


 順調に投稿のたびにポイントが増えて感想も来るようになると、どんな話題がポイントを得やすいのか、感想返信やSNSの利用など、様々に考えるようになった。


 交流のある作者さんや、SNSなども通じてレビュワーやスコッパーの人とも知り合い、どんどんとポイントが伸びるようになる。


 最近、ポイントの伸びが悪い、感想もあまり来なくなった。

 「少し時事ネタや流行りを追いすぎたかな。感想返信が遅れがちで適当になってきたせいか」

 自己分析をして改善を試みる。

 自分が上げたネタがうけて、同様のタイトルがランキングに溢れた時は痛快だ。

 感想欄に「このサイトにおけるインフルエンサー」と評価されて、悦に入る。


 また、伸びなくなった。調子にのっていると思われているのか、ポイント欲しさにネタに走りすぎたか。

 何とか解析して次に繋げようとしていると、SNSのメールフォームにあまり絡みのないフォロワーからメールが来る。

 何だろうと開けてみれば、ネットのアドレスが一つ貼られているだけでコメントもない。

 「なんだ、くそ怪しいけど」

 メールを送ってくれたフォロワーさんのページへと行く、別に業者とかじゃない普通の人だ。自分と同じくネット小説を投稿してる同世代の男性だ。

 「まあ、開かなきゃ問題ないか」

 

 メールの件を無視して活動を続ける。仕事が忙しく投稿間隔が空く、読んだ作品の感想に返信が来ないと不安になり、投稿した作品に感想が来ないと不安になる。

 「まあ、春先だし、皆忙しいものな」

 独り言を繰り上げてはスマホでホーム画面を開くのが癖になっている。

 そんな依存傾向に自覚し始めたころに、ふと無視していたアドレスのことを思い出す。

 「業者とかじゃないんだし、スパムってことも無いんだろ。コメントが無いのが変だけど、何か面白いサイトでも見つけて、送り先間違えたとかだよな」

 リアルの友人にでも送る筈が間違えたんだろうと、そんな風に考えたら、案外にそれが正解じゃないかと思えて来る。

 「試しに開けてみるか」

 

 メールフォームから件のメールへといき、貼られているアドレスにタップする。


 「エッセイジャンルで遊ぶスレ」

 そんなタイトルがつけられたネット掲示板サイトのスレッドに繋がる。

 どうやら、俺も投稿している小説投稿サイトの過疎ジャンルで遊ぼうという趣旨のスレッドらしい。

 何と無く流し読みしていると、見知ったユーザーの名前が散見されて、俺のユーザー名も見つかる。


 名無しのエッセイスト

 あいつは面白すぎ、ポイント狙い過ぎてのとか、露骨に感想へって沈んでの丸わかり

 

 名無しの詩人

 わかるー、ポイントなんて関係ないとか言う割に時事ネタ考察とかしまくってるしね。


 名無しの虚弱体質

 頭いいですね系の感想には必ず「私はバカですよ」って返してて、内心は見下してたり、調子にのってんの、良くわかるよな

 

 名無しの胃腸炎

 お前、ダイジョブか 

 

 名無しの医師

 任せろ、俺は天才だ

 

 名無しの継承者

 やめとけ、指がはぜるぞ



 なんだ、ここ。

 エッセイジャンルの常連ユーザーの愚痴スレじゃないか。何でこんなもん、フォロワーの人、間違えたんじゃなくて、嫌がらせだったのか、それとも、こんな不快な連中がいるってお知らせか。

 それにしても、本当にムカつくな。


 俺はそのスレッドをイライラしながらも読み進めた。始めは常連ユーザーの愚痴や悪口を言い合うスレッドだと思っていたが、次第に違和感を感じ始める。


 「スレッドの内容と俺のポイントや感想の変遷がやけに符合しないか」

 そう思ってから、あがっているユーザー、作品、感想、それに対してのユーザーの返信や活動報告などを見る。

 「こいつら、ユーザーの感情を誘導して楽しんでんのか」

 もっと言えば、特定の作品へのポイントの加点など過疎ジャンルのエッセイだからこそ出来るランキングの操作やそれで起こるユーザー達の反応を楽しんでいるんだ。

 「不正では無いけど気分悪いな」

 こいつらは作品を評価したり、作者を応援してるんじゃない。自分たちの思う方向に誘導するゲームを楽しんでるだけだ。


 それから、俺は人間不信に陥った。感想で貰ったコメントを信じられなくなってしまったからだ。

 あんなに嬉しかった赤文字が恐怖でしかない。


 暫くして投稿サイトから退会した俺のSNSにまたあのフォロワーからメールが来た。





 見たんですね。


 見なければ良かったのに。





感想お待ちしています。

作者は強メンタルなので、相当ボコられないかぎりは大丈夫です。

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― 新着の感想 ―
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[一言] まえがきが無いと、電子の海のどこかでは日常的に繰り広げられているのかと勘違いしてしまいそうになります。 誰かの玩具になる。 そんなことは無いと明言されていても、あるかもしれないという思いを…
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