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ロックゴーレム戦・終了後

「――は〜い、染みますよ〜」


「おぅふぅぅぅぅぅ……っ」


 頬の切り傷をナナの治癒魔術(ヒール)で治してもらう。


 身構えていたため叫び声こそ上げなかったが、やっぱり染みる。ケガそのものより痛い。


「はい、もういいですよ」


「……これくらい放っとけば治るってのに……」


「ダメです。軽いケガでも甘く見ちゃいけません。それに治せるケガを見過ごす訳にもいきません」


「妙なところで押しが強いな……」


 ヒールが染みさえしなければ、ヒーラーの鏡と言えたのに。


「それよりアオイさん。さきほどのパイルバンカーは……」


「ああ」


 自分の手のひらに目を落とす。


「さっき偶然気づいたんだ。どうやら光杭魔術(パイルバンカー)は魔力を溜めるほどに威力が増すらしい」


 俺はいままで『最低出力』で撃っていたのだろう。それでも、固い岩に穴を開けられるほどの威力があった。


 パイルバンカー、実はかなりすごい魔術なんじゃないだろうか。


「あんなに長く伸びるという事は、威力もそれだけ高くなったという事ですよね。奥まで突けるのですから」


「……ただ、燃費はかなり悪そうだな。体から魔力がゴソッと抜けた感じだ」


 さっきみたいな高威力で撃った場合、たとえ魔力満タンの状態であったとしても二発ほどしか撃てないだろう。気軽に乱発できるようなものではない。


「そこはまあ、経験を積んで慣れていけばいいんですよ。魔力は自分の感覚で管理するしかありませんから。それに、魔力量が増えれば回数も増やせるはずですよ」


「そんなもんか……」


 つぶやきつつ、俺はロックゴーレムの残骸に目を向ける。


 村人達が軽く残骸の整理をしつつ、下敷きになったゴブリンの死体を引っぱり出している。


 土とか岩とかのゴーレムを倒した時はあまり実感なかったけど、あのゴブリンも生物である事に違いないんだよなぁ。罪悪感……ってのも違うが、なんというか複雑な気分がある。


 もっとも魔物を放っておけば人間に被害を出す事になるし、躊躇(ちゅうちょ)するのは禁物だろう。魔王の脅威に直面しているこの世界でまかり間違って『ハラペコ魔物さんを元の住処(すみか)に帰してあげよう☆』みたいな事言い出した日には、即刻袋叩きにされてもおかしくないし。


 まあ、こればっかりは慣れていくしかない。


「……それより、一息ついたらなんかどっと疲れがやってきたな……」


「なにしろアオイさんが一番大変な役割でしたからね。お疲れ様でした。取りあえずゆっくり座っていてください」


「そうさせてもらうよ」


 俺は手近な岩に腰かけ、村人達の後始末を眺めた。






「――おお、戻られましたか! 救世主様に聖天使様!」


 村へと戻ると、村長さんを始め住民達から出迎えられた。


「ええ。ゴブリンは無事討伐しました。これでもう村から食料が奪われる心配はありません」


 そういって、俺は壊れた制御装置を村長さんに手渡した。


 ゴブリンが潰された時に巻き添えでぺちゃんこになったものだ。ロックゴーレムも倒したし、もはやただのガラクタである。


 村長は受け取った制御装置をしばらく眺めたあと、その場に膝をついて涙を流し始めた。


「おおっ、おお……っ!! ありがとうございますっ!! ありがとうございます救世主様に聖天使様っ!! なんとお礼を言ったらよいか……っ!!」


「いえいえ、そんな」


「これはもはや神託を得たも同然……っ!! この村は選ばれし新世界の聖地という事に違いありますまい……っ!!」


「違います」


「……いや。これはもしや、俗物が跋扈(ばっこ)する汚れた世界の秩序を清めの炎で包み、浄化するべしという神意では……?」


「確実に違います」


「……やはりここは、救世主様に世界を清めていただくための生け贄をこの村から十人ほど見繕うべきなのでは……」


「違うと断言しますのでいっぺん落ち着いてくださいマジで」


 果たして俺は、本当の意味でこの村を救ったと言えるのだろうか。急に自信がなくなってきた。


「……まあ、村長のヨタ話は置いておくにして――」


 ふたりの男性が俺の前にやってきた。昨日俺を責めていたおじさんと、背の高い男性だ。


「すまなかった。昨日は失礼な事を言ってしまって」


「悪かったと思ってる。あんたはこの村を救ってくれた。本当に感謝しているよ」


 二人は揃って俺に頭を下げる。


「ああ、いやいやそんな。俺も軽はずみだったと反省してますし」


 俺は首を横に振りながら言った。


 実際、うかつな攻撃魔術は災難を呼び込みかねないというのがよく分かった。今後はもっと慎重になったほうがいいだろう。


 その後は村人達からやんやと喝采を浴びた。


 間違いなく、人生で一番人から感謝された日だった。

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