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決着

「うっしゃああああああ――――――っ!!」


 死のクリムゾンが容赦なく繰り出してくる攻撃を、クロエはソウルイーターで次々とさばいていく。


 触手状の細いゼリーは軽々と切断し、腕状の太いゼリーも真正面から弾き返している。


 先ほどまでも十分に凄かったが、今は輪をかけて剣が冴えている。消耗していた生命力をナナの治癒魔術ヒールで完全に回復できたおかげだろう。


「――なんなのあの刺激っ!! ポーションなんかじゃ味わえない最っ高の刺激だわっ!! ああっ、私いま生きてるっ!! いま最っ高に生きてるって手応え感じるわぁっ!!」


 ……それとは違う意味でも元気になっているが。


「すごいですクロエさん……っ!! このまま行けば……っ!!」


 猛烈な勢いで触手ゼリーをさばいていくクロエに、ナナは興奮気味に叫んだ。


 確かに今の調子なら切り抜けられるように見える。このまま魔物のふところに迫り、弱点である核を両断できるようにも思える。


 しかし、


「……いや、あいつの様子を見ろ。全然追い詰めてる感じじゃない」


「……おう。なんや、想像以上にやるやんけ」


 死のクリムゾンのつぶやきには焦りの色がうかがえない。まだまだ本気を出しきっていないのだろう。


「それに、周囲のスライム達もいざって時は襲ってくるだろうな」


 周囲を取り囲んでいる色とりどりの各種スライム達を指す。


 気まぐれなのか戦力の温存なのか、今のところ死のクリムゾンは彼らに手を出さないよう命じている。だがもし奴の気が変わり、スライム達へ一斉攻撃を命じればたちまちの内に数で押しつぶされてしまうだろう。


 それに、クロエもいずれは生命力が尽きる。ヒールで回復はできるが、敵は今度こそその隙を見逃しはしないだろう。そのまま一気に突き崩されてしまうかもしれない。


「クロエはよく戦っているが――それでもこちらが不利である事に代わりない。このまま長期戦に持ち込まれちゃまずいぞ」


「じゃあ、どうするんですか?」

 

 ナナの問いに対する答えはひとつしかない。


「いちかばちか攻めに転じるべきだ。俺の光杭魔術パイルバンカーであいつを攻撃する。溜め撃ちならあいつの核も十分狙えるはずだ」


「……そうですね」


「クロエッ!!」


 魔術の準備をしながら、前線で奮戦するクロエに大声で叫ぶ。


「なにっ!? 私、いまだかつてないくらい最っ高な気分なんだから水差さないでちょうだいっ!!」


「いや水は差さないからっ!! 代わりにそいつへ杭をぶっ刺すための手伝いをしてくれっ!!」


「パイルバンカーって魔術の事っ!? だけどあの短さじゃ浅い部分しか――」


「勝算はあるっ!! 頼むっ!!」


「……分かったわっ!!」


「……オレをぶっ刺すぅ? さっきのシケた魔術の事か? ……はんっ!! あんな短い棒ぶっ刺せるっちゅーんならやってみいや、おおうっ!?」


 大声で指示したため、当然死のクリムゾンにも聞こえていた。怒声とともに体から大量の触手状ゼリーを伸ばし、こちらへ一斉に飛ばしてきた。


「っらああああああっ!!」


 矢のような鋭さで飛んでくる触手状ゼリーを、クロエは右へ左へと切りまくる。より多くの生命力を吸わせているのだろう、魔剣ソウルイーターの赤い刀身がひときわ強く輝いている。


 そのまま少しずつ前進。一歩、また一歩と死のクリムゾンへと近づいていく。


「おうおうおうっ!! ちいっとばかり本気出したらあぁ――――――っ!!」


 ここに至ってクロエの腕前に脅威を感じ取ったのだろう。死のクリムゾンはこれまでよりはるかに大きく太い、ひとかたまりの腕を成形した。


 ここが勝負どころと踏んだのだろう。クロエがちらっと俺へ目を向けて叫ぶ。


「アオイッ!! 耐えられるのは次が限度よっ!! ここで決めなさいっ!!」


「分かったっ!!」


「――さあやるわよ、るーちゃんっ!!」


 高々と掲げられたソウルイーター《るーちゃん》がさらに強く輝く。魔剣の切っ先に沿って赤いオーラが天へ伸び、長大な刀身を形作った。


「――おんどりゃああああああああ――――――――っ!!」


「――でぇいやああああああああ――――――――っ!!」


 死のクリムゾンが極太の腕状ゼリーの一撃を繰り出すのと、クロエが大上段から魔剣を振り下ろすのは同時だった。


 真正面から激突。


 大砲のように迫る死のクリムゾンの攻撃と、ソウルイーター《るーちゃん》のオーラ刃とがほんの一瞬拮抗し――赤いオーラ刃が赤いゼリー体に食い込み、切り裂いた。


 さながら川の激流に棒を突き立てるように、スライムのゼリー体が左右へと割れていく。俺達の両脇を猛烈な速度で流れていく敵の一撃。魔剣が振り切られ、長大なオーラ刃が死のクリムゾンの体を半ばまで叩き切る。


 力を使い果たしたのか、その場でクロエが膝を折る。だが彼女の眼前には、敵の弱点である核への経路が文字通り切り開かれていた。


「……今よっ!!」


 クロエの声に弾かれるように俺は全力で駆ける。さながら割れた海を進むモーセ一行のように、左右に横たわる赤いゼリーの間を突き進んでいく。


「させるかいっ!!」


 だが、核まで到達する前に俺の動きは止められた。両側面のゼリーが再び動き出し、左右から挟み込まれるように俺の体が捕らえられた。


 ――だが、この距離なら行けるっ!!


 スライムの体に飲まれたまま、右手を核へと向ける。すでに魔術の準備は完了している。


「ふん、兄ちゃんのみみっちいモンがオレに届くかいなっ!! ムダな事――」


「パイルバンカーッ!!」


 発動。


 手のひらから飛び出した魔術の杭が、死のクリムゾンの核へ一直線に伸びた。


「なぁっ!!」


 初めてと言っていい動揺の声が死のクリムゾンから漏れた。なにしろ奴はさっき放った一撃だけでパイルバンカーの射程を理解(わか)った気でいたのだ。


 その油断が命取りだっ!! 俺のモンがみみっちいかどうかじっくりと見やがれっ!!


 杭の鋭い先端がゼリー体を突き進んでいき――貫く寸前、死のクリムゾンとっさに核を動かした。


「――ぐぅぅおおおおっ!!」


 どうやら敵は体内で核を自在に動かせるらしい。パイルバンカーが核の横をかすめるように伸び、そのまま伸び切った。


 くそ、惜しいっ!!


 避けられこそしたものの光杭は核の側面を削り取り、損傷を与えていた。


 ダメージを負ったためか、俺を包むゼリー体の拘束が弱まっているのが分かっ

た。ゼリーをかき分けるようにして脱出、その場から退避する。


「……アオイ……あなた、あんな大きいものを隠し持って……」


「……まだ油断するなよ。倒しきれなかったからな……」


 荒い呼吸のクロエへ視線を向けずに言う。


 彼女も限界だろう。俺も先ほどまでの戦闘で魔力をほとんど使ってしまった。もしもあいつが反撃してきたらほぼ打つ手がない。


 死のクリムゾンがうごめく。敵の体から触手状ゼリーが伸びる。一瞬身構えた

が、どうやら攻撃を仕掛ける様子はない。そのまま戦闘で切り飛ばされたゼリー体へと伸ばし、回収できる範囲で回収している。


「……ふん。ここらが引き時やな」


 やがて、死のクリムゾンが吐き捨てるように言った。


「まあしゃあないか。ここにこだわらんでもやりようはいくらでもあるさかい。おうオマエら、撤収や」


 死のクリムゾンが言うと、俺達を取り囲んでいたスライム達がデニスの塔内部へと引き上げていく。最後に死のクリムゾンが、体を押し込めるように塔の中へと消えていった。


 付近が静寂に包まれる。


 あれだけいたスライム達が、いまや気配すら感じられない。それどころか塔の中から物音ひとつしない。不気味なほどにしんと静まり返っていた。


「……やった……んですか?」


 どれだけ時間が経っただろうか。やがてナナがぽつりとこぼした。


「たぶんな……」


 深追いできる状態ではないが、かといって塔をこのまま放置する訳にもいかな

い。せめて内部をざっと見回っておいた方がいいだろう。


「……ひとまずクロエの回復が先だな。それから塔内部を調べておこう」


 俺は言った。



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