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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
三章:魔導院入学試験
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実技試験終了

 ――魔導院地下の迷宮、【零落の墓地】には様々な魔物が存在している。地下へ潜るほど手強く、そして複雑怪奇な構造を持つ。

 一層は、その地下と比べれば比較的マシな部類だ。複雑ではあるが、道を歩けば必ず出口へと辿り着けるのだから。だが、地下はそうはいかない。出口へと歩いたつもりが逆方向へ、登ったつもりが降って、終いには上下すら曖昧に……


 そんな異次元の如き深層と比べれば、物理的な迷路のなんと優しいことか。


「――はい、君達で最後です……。採ってきた素材を提出したあとは、結果発表まで自由にしていて構いません……」


 あの後、なんとか素材を瓶に詰めたリアムとフローディアは、余計な戦闘はしたくないと魔物を避けて数時間さまよい続けた。

 探索から戻ってきた順番も最後らしく、試験官の男は疲れたような溜息をつきながら素材を受け取る。リアム達が上がってくるまで、律儀にずっと待っていたのだ。


 無論、試験なのだから試験官がその場にいることに不思議は無い。しかし、それは二段階目までの話であり、三段階目では迷宮内に送り出した時点で役目は終わっている。受験者達が採ってきた素材は代理の者に渡させるなり、採れる素材は判っているのだから後日提出させてもいい。


「では私はこれで……」


 彼は受け取った素材を箱に梱包し、部屋を退出する。実技試験は終わったのだ。

 二人はどっと疲れが押し寄せてきたように感じ、その場で膝から崩れ落ち大きく息を吐く。酷く困憊(こんぱい)しているのだ。


「疲れました……」

「かなり……厳しい試験だったね……」

『「私はずっと息苦しくて辛かったわよ……」』

「ああ……『■■■(リギル)』は風の通りが無いと……だったね。付き合ってくれてありがとう」

『「……別に、今更お礼なんて言わなくていいわよ。私はずっとリアムの傍にいるもの」』


 そう言って、リギルはその場でふわりと舞い上がる。優しい風が二人を包み、その疲労を少しではあるが回復した。


――――――


 魔導院中央塔、第三講堂。

 常ならば研究員や講師が、魔法の何たるかを生徒に弁舌する場である。しかし、実技試験が終わった今は別の用途に使用されている。


「えー……では、実技試験の獲得点数について協議しますね……」


 この場には実技試験の試験官であった男を含め、十名の研究員が集まっている。同数の一級講師は同じ列に並び、その後ろに倍数の二級講師、三級講師が並ぶ。

 研究員は自らの研究に打ち込む許可を得た者達であり、講師は研究員になれるほどの結果を出せていないか、後進の育成のために研究員を辞退した者だ。


「お手元に配布した資料に受験者の暫定結果を記しておりますので、それを元に議論をしていきたいと思います……」


 彼が手元の資料に視線を落とすと、すぐに議論が始まった。

 ――そう。ここは今、受験者の合否を決める場であるのだ。


「ふむ、今回は中々いい粒揃いじゃないか」

「育てがいのありそうな若者がいるな」

「推薦状組は四人もいるのか……新しい風になるかどうか」

「それよりも練度だろう。制御が甘いのでは意味が無い」

「私はこの者が気になりますね……単独で三段階目を突破とは……」


 研究員も講師も、各々の意見を口にする。個人の実力を見る者もいれば、伸び代を見る者もいる。中には厳しい意見もあるが、いずれ魔導師を目指す者にならば容赦は必要無い。

 だがやはり、推薦状組は受験者の中でも特出していた。


「フローディア……彼女は中々いい。成人を迎えたばかりの年齢で〈(グラキエース)(・フラルゴ)〉を発動している。二種属性の複合魔法をあの歳で使えるとは……“無尽卿”が弟子に向かい入れるのも納得だ」

「ならばこちらの者も評価するべきでは? 彼女の魔法はどれも基礎の魔法だが、その練度は研究員にも匹敵する。成長すればいずれ大成するだろう」

「私はこっちのが気になるねぇ……。アルヴァスク帝国第六皇子……ハインリヒ・リヒャルド・フォン・アルヴァスク。一層とはいえ迷宮を単独で踏破、しかも全ての魔物の素材を採取している。魔法の腕はそこそこだが、鍛えれば伸びそうだ」

「僕としてはァ、リアムが気になりますねェ。幻想魔法を扱えるのは逸材ですよォ」

「そりゃ妖精と契約してんだから、使えてもおかしくはないだろ。俺はそれよりも、対人での判断力を褒めたいな。ほぼ防戦一方だったが、研究員であるノスフェラトゥに一撃与えてんだろ?」


 議論は続く。会議は踊る。

 名高き魔導院に勤める研究員や講師といえど、それぞれの立場がある。ほとんどの者は貴族であり、そうでなくとも繋がりがあるため腹の探り合いは必須。故に、どのような場であっても自身の属する派閥に有利になるよう、お互いに牽制し合うのだ。


 この場で派閥に所属していないのは、試験官であったノスフェラトゥだけだろう。何せ彼は小市民……元は田舎で才覚を顕にしただけの、平々凡々な一人の魔法使いに過ぎないのだから。


 昼過ぎに始まってはや数時間。すっかり日も落ちたころになって、ようやく受験者の結果が決まる。


「ハインリヒ・リヒャルド・フォン・アルヴァスク……自身への理解度、七……。対人での判断力、七……。迷宮での適応力、一〇……」


 推薦状組一人目、アルヴァスク帝国第六皇子は二四点で見事合格となった。


「フローディア……自身への理解度、八……。対人での判断力、一……。迷宮での適応力、六……」


 推薦状組二人目、フローディアは一五点でギリギリ合格となった。


「リアム……自身への理解度は測定不能のため五……。対人での判断力、九……。迷宮での適応力、六……」


 推薦状組三人目、リアムは二〇点でまずまずの結果で合格となった。


「サルーサ・スヴィクト……自身への理解度、九……対人での判断力、五……。迷宮での適応力、六……」


 推薦状組最後の一人も見事合格だ。

 この日に合否が決まるのはこの四人だけだが、四人とも魔導院に入学する資格有りと判断された。


「……では、残りの試験もありますので、担当の方は移動をお願いします……。私はこれで……」


 ノスフェラトゥが部屋を退出する。


 これらの結果が貼り出されるのは後日だが、推薦状組にはすぐに伝えられる。試験結果を手紙に同封し、仮初の命を与えて目的地まで羽ばたかせる魔法を使い、目的の人物に届けるのだ。

 ノスフェラトゥは実技試験の試験官として、推薦状組にそれを届ける義務がある。魔法そのものは簡単な部類のものなので、この作業ミスすることは無い。


 そして、その日のうちに試験結果がそれぞれの者に届く……

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