魔導院入学試験・実技試験一段階目
魔導院の試験は一筋縄では突破できない。どれだけ才能があっても、学ぶ姿勢や教養が無ければ容赦なく落とされる。
ただ魔法を使いたいだけの者に、魔導院は扉を開かないのだ。
例えば、何となくで魔法を使える者。その魔法を成り立たせている理論も、そしてさらに強くしたいという向上心が無ければ、それがどれだけ高度な魔法だとしても不適格と判断される。
魔導師は常に成長するもの。そして成長しようと努力するもの。
「――えー、全員集まったようですね……」
魔導院が所有する施設、魔法修練場に魔導師志望の魔法使い達が集まる。彼らは全員魔導院への入学を希望しており、そして今実技試験が始まろうとしているのだ。
「まずは筆記試験、一次面接、薬学試験、採取試験、二次面接、の突破おめでとうございます……。今から行われる実技試験での結果次第では、落ちる人もいるでしょうが……。推薦状組でも実技試験がいまいちだった場合、容赦なく落としますので気合い入れてくださいね……」
どことなくやる気の感じられない、白衣を纏った男性が試験官のようだ。
彼の片手には受付で書いた用紙が人数分ある。人数が人数なのでかなり分厚くなっている。
「頑張りましょうね……っ!」
フローディアはとてもやる気に溢れている。
「試験の内容次第だと思うけど……できる限りのことはするつもりだよ」
『「リアムなら大丈夫よ。だって、人間とは比較にならない魔法が使えるんだもの」』
『「私達が教えた魔法があるもんねー!」』
「…………私も、教えようかな」
妖精達はいつも通り楽観的だ。しかし、むしろ普段と変わらない彼女達の様子に、リアムは緊張を解されている。
「ではまずは得意な魔法を一つ発動してください……。威力はどうでもいいです……。あくまで技術面、どれだけ理論が整っているかを見るだけ……ですからねぇ……」
「得意な魔法か……」
正直言えば、どれも得意だと言わざるを得ない。妖精達にとっての得手不得手とは、出来るか出来ないかの違いだからだ。
そして、その魔法を教わったリアムも同様である。自分が使える幻想魔法は全て得意に分類され、使えない魔法は全て不得意だからと判断している。
ただし、人間の魔法はあまり知らないため、そもそも殆ど使うことが出来ない。
「ああ、周囲への影響は考えなくていいですよ……私の結界魔法で保護してますので……」
「(結界が得意だから試験官なのか)」
「俺からやります!」
「はいどうぞ……攻撃系は的に、支援系は自分自身にお願いしますね……」
一人目、真面目そうな少年だ。魔法使いとしてはよく見る装備で、安物ではないが高級品でもない普通の杖を使っている。
「《迸る風の矢、我が眼前を駆け抜けよ》! 〈風の矢〉!」
「ふむ……。では次どうぞ……」
中々速度がある魔法だ。的を貫通し、殺傷能力も十分にある。
恐らく、あれが普通の魔法使いの基準だろうとリアムは考える。
二人目、三人目、四人目、全員がほぼ同じような詠唱で同じような効果を出している。 だが、それだけでは不十分なのだろうなと、試験官の様子からリアムは推測した。
「――次……」
「はい」
「……ああ、推薦状の。とびっきりのをお願いしますよ……」
リアムが指定された位置に立つと、試験官は彼が推薦状組の一人だと思い出した。
とびっきりの魔法を、ということは……魔導師に推薦状を書いてもらえるだけ実力を見せてみろ、という意図があるのだろう。
「……じゃあ、使いますね」
リアムは両手を前に出す。よく使う剣を作る魔法ではなく、もっと分かりやすいものを選んだのだ。
幻想魔法に人間の理論は必要無い。必要なのはイメージと――世界にそう認識させる神秘のみ。
「ほう……ほうほうほう………っ! これは中々……」
轟ッ! と風が吹き荒び、砂と土を巻き上げて竜巻が起こる。
翠の風、嵐の象徴。狂風の名を冠するリギルから教わった中で、最も暴力的な幻想魔法。それがこの竜巻。
「的が粉々になりましたねぇ……。換えはあるのでいいんですが……いいものを見せてもらいましたよ……。次どうぞ……」
どうやら高評価を貰えそうである。
他の受験者が唖然としているが、試験官に頼まれたのだから仕方ないことだとリアムは思う。
フローディアはすでにリアムと契約している妖精達と面識があるので、他の人のように唖然とはしていないが、彼女から尊敬の眼差しのようなものを向けられて、リアムは少しこそばゆくなった。
それから、唖然として固まっていた受験者達は試験官の言葉で我を取り戻し、各々試験に臨んでいった。
フローディアは目隠しを外し、短縮詠唱での〈氷爆〉を披露した。二種類の属性を混ぜ合わせた複合魔法である。
「――はい、これで全員ですね……」
「け、結果は!?」
夕方、そろそろ真っ暗になるという頃になって、全員が魔法を披露し終えた。
中にはリアムやフローディアのように、飛び抜けた実力を持つ者も何人かおり、見ていて退屈しない試験だった。
「……? 実技試験はまだ終わってませんよ……」
「え……?」
試験官が言うには、実技試験ちは三段階あるそうだ。リアム達は一段階目の様子見が終わっただけで、試験としての本番は二段階目以降らしい。
しかも、日が暮れようが朝になろうがお構い無し。全員が三段階終了するまで、この場での実技試験は継続される。そして、この試験の合否は三段階全ての結果を元とするため、合格かどうかすらその場で伝えられない。
終わってからも緊張を強いられそうな試験である……
「一段階は得意な魔法……じゃ二段階目は一体……?」
「戦闘です……。ペアを組んで、魔法を撃ち合ってください……」
ざわつき始める受験者達。
「二段階目は、戦いの場でどれだけ魔法を扱えるかを見ます……。勝っても負けても評価基準は変わらないので、普段通り得意な戦いをしてくださいね……」
これは、普段から戦闘をしていなければ不利になりそうだ。
リアムは戦闘経験があるため、この内容ならかなり有利になる。しかし、そうでないものからすればかなり不利な試験となる。
「あの! 私は魔法の研究がしたいんです! 戦闘をする意味なんて無いと思うんですが!」
「――あー、時々いるんですよね……勘違いする人……」
ボリボリと頭を搔く試験官。彼は懐から短杖を取り出すと、一段階目で使用された的に向かって魔法を放った。
詠唱をしない、かなり高い練度の魔法だ。
「私は研究員の地位にいます……。けどね、これくらいは出来ないと困るんですよ……」
だって、結局のところ魔法は戦いの道具として発展した歴史があるのですから……
そう言う男の顔はどこか悲壮で、それでも辞めることの出来ない何かへの執着が感じられた。
「今使った魔法のように……対象をグチャグチャに捻じ曲げて、捻じ曲げて、死の瞬間までとてつもない激痛を与えるものもあります……これも魔法としては一般的なものです……。そんなに研究がしたいと言うなら、せめて人を殺してから来てください……」
試験官の男はそう告げると、用紙を一枚破り、グシャグシャに丸めて質問をした少女に投げ渡す。
「失格です……。また次頑張ってください……」
――魔導院は覚悟が無い者に学ばせようとはしない。知恵が無い者、覚悟の無い者が安易に深淵を覗き込み、狂ってしまうのを防ぐためだ。
研究の末に狂ってしまうのは仕方ないが、研究どうこうの前に狂ってしまうのはそもそも不適格。それが魔導院に所属する研究員と魔導師の総意だ。
「……えー、では再開します……ああ、奇数になってしまいましたね……余った人は私が相手をします……」




