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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
三章:魔導院入学試験
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魔導院と手続きと豪邸

 ブォン、とナニカが二人の目の前を高速で通り抜ける。あまりにも速すぎて残像すら認識できなかったが、もし当たっていれば大怪我間違いなしだったろう。


 リアム達はナニカが飛んで行った先に視線を向けた。建物の外観以上に広い通路が続いている。

 物理法則に喧嘩を売っている建物の構造については何も思わないことにして、リアムは先程通り抜けて行ったナニカの正体を見つけた。


「……本?」

「え、本が飛んでいたのですか!?」

「多分そう思いますけど……えぇ……」


 ナニカは本……のような形をしていた。本と断定できないのは、ソレが鎖でがんじがらめにされており、しかも牙をむき出してガウガウ唸っているからだ。

 いや、断じて本では無い。アレは本と呼ぶことは出来ない。魔物の類だろう……リアムはそう思うことにした。


「――そこの君達! 今ファングノレッジが通ったと思うけど、どこに行ったかわかるかい!?」

「えっと、あそこに……」


 どうやらファングノレッジと言う名前らしい。ドタバタと慌てた様子で駆け寄って来た青年にソレの居場所を教えると、青年は懐からルーペを取り出してその方向を見据えた。


「ああ、いたいた。良かったありがとう!」


 彼はほっとした様子でファングノレッジを掴み、ジタバタ暴れるソレを逃がさないよう押さえ込みながら、そのまま反対側の通路へ去っていった。

 一体何だったのだろうか……リアムとフローディアは疑問に思った。


 ちなみに、ファングノレッジは魔力を介さないと視界に映らない特殊な魔物で、凶暴な性格をしている。知恵ある者を貪り食う生態のため、鎖が外れていたらかなり危なかっただろう。


「……とりあえず、受付に行きましょうか」

「そ、そうですね」


 二人は今の出来事を見なかったことにした。日常茶飯事なんだろうな……と、薄々察してしまったからだ。


「すみません」


 受付のベルを鳴らして人を呼ぶ。


「はいはい、何ですか? 実験で忙しいんですよ……っと」


 愚痴を吐きながら現れたのは、髪がボサボサになっている女性だ。妙にギラギラした目をしている。


「魔導院の入学試験がいつなのか知りたくて」

「試験? あー、試験ね試験。えっとたしかここら辺に……あったあった。はいこれ」


 渡されたのは用紙だ。氏名と年齢を記載する欄があり、二重になっている。筆圧で下の紙にも同じ文字が記入されるようになっているようだ。

 注意書きに、試験を受ける際に費用は取らないが、合格し入学が決まった場合は一年ごとに費用を請求すると書かれている。借金することは可能だがお勧めしないとも。


 ……請求される金額は一年で金貨三〇枚。四年経過で卒業とし、合計で白金貨一枚と金貨二〇枚となる。研究員として認められた場合も同様。但し借金をしていた場合、研究員は年棒から引かれ、そうでなければ魔導院での無償労働となる。


 魔導院での無償労働とは、簡単に言ってしまえば他の魔法使いの実験に付き合わされたりする危険な仕事だ。

 無理して借金するぐらいなら、無理と無茶をしてお金を稼いだ方がマシらしい。


「それに名前と年齢と……あと得意な魔法とか書いちゃって」

「あの、推薦状は?」

「あ、推薦状あんの? じゃあそれも出して。受理しとくから」


 言われた通り、二人は推薦状を取り出した。渡された用紙に必要事項を書き終え、推薦状と一緒に纏めて返す。


「えー、と……日程は明後日から一週間だけど……この日は筆記か。こっちも……となると、この日か。推薦状あるから二人は四日後にね。実技試験あるから昼前に来るように。んじゃ」


 質問する暇もなくピシャッ! と窓が閉められる。とはいえ、受理はされたようなので、二人は大人しく四日後を待つことにした。


「――ちょぉっとまったぁあ!!!」


 が、先程の女性が受付横の扉から飛び出てくると、鬼気迫る表情で二人に迫る。


「む、むじ、“無尽卿”の推薦状ってほんと!? いや本物なんだけど、何この内容!? もしかして弟子!? マジ!?」


 推薦状を書いた人物に驚いていたようだ。

 彼女は二人の手を取るとぶんぶん振り、「試験頑張ってね! 魔導師の弟子ふぉぉぉぉ!」と一人はしゃぎ始めた。


 これには妖精達もドン引きである。


『「何この人怖いわ……」』

『「怖いねー……」』




 その後、“無尽卿”との関係について根掘り葉掘り訊かれたが、リアムが弟子扱いになるのは試験後であり、フローディアも今はまだ厳密には弟子ではないと答えるので精一杯だった。


「疲れた……」

「そうですね……でも、素直そうな人でしたね」

「ああ、言われてみれば確かに。暴走してたけど」


 あの女性の質問攻めでぐったりと疲れた二人は意気投合し、お互いにどこか遠慮していた態度が丸くなっている。

 その様子を見て、スフィアは面倒な絡まれ方をされたなと、苦笑いするばかり。


「試験は四日後か。満月の翌日で縁起がいいのもあるだろうね」


 言われて始めて、三日後の夜が満月だと気づくリアム。

 そうか、もう一ヶ月近く過ごしたんだ……と妖精の森を懐かしく思う。


「……」

「あの、満月だと何があるのでしょう?」

「満月は魔法使いにとって吉兆でね。昔から続く慣習もあるが……満月の翌日は大気中に満ちる魔力が少し濃くなるんだ。妖精の悪戯も増えるしね」


 妖精の悪戯と言われてギクッとするリギルとルー。二人に誘われて悪戯をしたことがあるリアムも身を強ばらせる。

 妖精の悪戯は水を掛けたり風で転ばせたりと些細なものだが、満月の翌日はその頻度が多くなると魔法使い達は統計をとって結論づけている。


「しかし、妖精が自ら姿を現す時は要注意だ。危険な悪ふざけをする前兆か、契約者が近くにいるからね」


 さらに身を強ばらせる妖精達。メルディはなんの事やらと疑問を浮かべているが、リギルとルーは冷や汗をかいているだろう。


「じゃあ、この子達はリアムさんと契約しているから頻繁に姿が見えるんですね」

『「リアムに悪い虫がつかないようにしているのよ」』

『「悪い虫は許さないぞー」』

「ふふっ、可愛いですね」


 そんな他愛ない会話を繰り返し、いつの間にか目的地に着いた馬車が動きを止まる。

 それに気づいたスフィアが扉を開けると、その先には大きな豪邸があった。


「私の工房だよ。色々欲しいものがあってね、大きい家を買ったのさ。まあ、その結果かなりの部屋が余ってしまったのだけれど」


 魔法で門を開くと、馬車はひとりでに動き出し敷地の裏へ進んでいく。賢い馬のようで、ここに来たら勝手に馬小屋に帰るよう調教されているとのこと。

 とはいえ、(ながえ)やら手綱やらを外したり、餌をやったりするために厩務員を雇っているそうだが。


「一階と地下は実験室と倉庫ばかりだから、二階の空いている部屋を好きに使うといい。それと、今はまだ使わせてやれないが、君達だけでは出来ない実験をしたいなら地下の実験室を使わせてあげるとも。費用も全額私持ちだ。有意義に過ごしなさい。――尤も、入学できたら、だけれどね」


 あれこれ説明を受け、リアムにはそこそこ広い角部屋が、フローディアにはその三つ隣の部屋が与えられた。

 どちらも日当たりがいい部屋である。


 リアムの部屋はベッドと衣装棚以外の家具が無いが、フローディアの部屋には王都から引っ越して来たため箱詰めされた荷物が山積みにされていた。


「……あの、一人じゃ大変なので手伝ってくれますか?」

「うん、手伝うよ」


 さすがに同居人が大変な中で休む勇気はなく、リアムは彼女を手伝うことにした。


 ――ちなみに、今更だが工房にも幾つか種類がある。

 実験をするためだけに用意され、実験設備と素材を保管する倉庫しかない工房……住居を兼ねた一体型の工房……元々あるものを再利用している工房……個々人によって使い方も形態も違う工房には、そこを使用する魔法使いの特徴が大きく現れる。


 この建物は住居を兼ねた一体型の工房だ。スフィア・ノルンがどのような魔導師なのかは……ここで暮らしていけば嫌というほど身に染みるだろう。




「――魔法陣……? なんの魔法でしょうか」

「ほんとだ。読めないな……読める?」

『「読めないわ。古い人間の文字じゃないかしら」』

『「分かんなーい」』

「スフィアさんでしょうか」


 フローディアの荷解きを手伝っている最中に発見した、床に大きく描かれた魔法陣。リアムとフローディアには読めない言語で書かれており、妖精であるリギルとルー曰く大昔の人間種の言語らしい。


「…………保護結界、多重作用、強化。他にも沢山ある」

「紫黒の君、読める?」

「……うん。よく知ってる」


 メルディが言うには、これは幾つもの魔法陣が連結して初めて効果を発するものであり、この建物そのものを一つの魔法陣に見立てているようだ。

 内部の人を守るための魔法が刻まれており、放っておいても心配いらないらしい。

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