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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
三章:魔導院入学試験
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再開と出会い

 ――冒険者の朝は早い。日が昇る頃には身支度を整え、組合に赴き受注する依頼を吟味するのだ。


「三人とも、朝だよ」

『「ん、ぅぅ……もうすこし……」』


 リアムも人の世界で過ごすことで、一般的な冒険者のような時間帯に目覚めるようになった。しかし、リアムが起きても妖精達はベッドの上で夢現……

 仕方ないため、リアムは彼女達を揺さぶり起こす。


「――じゃ、いこうか」


 身支度を整え、リアムは組合に向かう。魔導院に向かう道中でこなせるような依頼がないか確かめるのだ。

 王都に来て四日目だが、やはり人の多さにはまだ慣れない。人混みに揉まれながら通りを抜け、冒険者組合のある噴水広場に着いたのは宿を出てから一時間後だった。


「……馬車?」

『「わあおっきい……誰が乗っているのかしら」』


 組合の前には、見たことも無い大きな馬車が一台泊まっていた。二頭の馬に牽引させるタイプの馬車で、車輪には何らかの魔法まで掛けられている。

 どう考えても貴族の馬車だ。そう確信し、リアムは弱冠憂鬱な気持ちになりながら建物へ入っていく。城塞都市の領主のような貴族は御免だからだ。


 建物の中は相変わらず冒険者でごった返していたが、昨日までとは違い、明らかに人が避けている場所がある。


 併設されている酒場の、一番手前のテーブルで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 金色の髪をたなびかせ、男装のような衣服に身を包み、豪奢なローブを羽織っている彼女の名は――スフィア・ノルン。


 類稀なる“無尽卿”が、安物の酒を優雅に嗜みながらテーブルに着いていたのだ。

 そりゃあ冒険者が避けるのも当然だ。変に関わって罪に問われようものなら、それこそ一大事だから。


 しかし、彼らの予想に反して近づく者がいた。リアムである。


「――おや、偶然じゃないか。待っていたのだから偶然でもなんでもないのだがね」

「……なんでいるんですか」

「君がここにいるんだから、分かるだろう?」


 リアムがここにいる理由は魔導院に向かうためだが、まさか貴族がただの一市民のために……と考えたところでパチンッと指が鳴らされる。


「マジですか……とゆうか、心読めるんですね」

「今はそうゆう魔眼を付けていてね。ある程度の思考は読み取れるのさ。っと、それよりも……」


 彼女は立ち上がると、そばに居た少女をリアムに紹介した。少女はおどおどとした様子であり、目隠しをしている。


「この子はフローディアと言う。かなり変わった魔眼を有していてね、私が弟子として預かることになっているんだ」

「フ、フローディアです……初めまして……」

「……リアムです。どうして俺に紹介するんですか」

「君も弟子にするつもりだからね。もっとも、君の場合は魔導院の試験に合格したら、だけど」


 初耳である。魔導院に試験があるのも、弟子にするつもりなのも、両方とも初耳である。

 リアムは上手く飲み込めず、数秒固まった後に頭を抱えた。


「…………じゃあ、推薦状って意味ないんじゃ」

「いやいやあるとも。推薦状は複数ある試験の内、実技以外の全てを免除出来るんだ。数日掛けて行われる試験が、たった一回の実技だけで突破できるんだ……欲しがる者は多い」


 逆に言えば、魔導師の推薦だろうと実技が伴わなければ不合格になるというわけで……


 リアムは目の前でにやにや笑う魔導師に振り回された気分であった。

 初めから目を付けていたのだろう。推薦状を書いたのはリアムへの手助けの意味もあるだろうが、それ以上に変わった才のある魔法使いを手元に置きたかったのではないか。リアムは心の奥でそう思った。


 ……一般的に、妖精は自然と共に在る存在であり、隣人だ。妖精と契約できる魔法使いは滅多におらず、いたとしても力の弱い妖精一人だけの場合が多い。

 しかしリアムはどうだ。狂風と水の二人と深い絆で結ばれており、さらには出会ったばかりの妖精とも契約を結べている。少なくとも三人の妖精と契約しているのだ。妖精を見る眼を持ち合わせていない人間ならともかく、神秘と魔力を有する者ならば誰もが羨ましがる。

 懇切丁寧に説明され、そんな相手を弟子にしたいと考えるのは不自然かい? と問われれば、リアムはゆっくり項垂れるしかなかった。


「あ、あの……スフィアさんは魔導師の中でも良識がある方なので…………他の方の弟子にされるよりマシかと……」

「たしかに、“鮮血卿”や“断絶卿”に拾われるよりは、私のほうがまだマシだろうさ」


 “鮮血卿”は吸血種の魔導師、“断絶卿”は人間種だがほぼ不死種に近い魔導師である。どちらも魔導師らしい狂いまくった変人とスフィアは語る。


 曰く、“鮮血卿”は女にだらしない。特に若い女となれば見境がなくなる。

 曰く、“断絶卿”は無理難題ばかり押し付ける。死ぬ気でやればクリア出来る無理難題だから余計に質が悪い。


「…………はあぁぁぁ」

『「……帰る?」』

「……いや行くよ。魔法をもっと知りたいのは事実だし、魔法使いの心得も知りたいから」


 大きく溜息をついて、リアムは自分の頬を叩く。


「行きます。魔導院の試験はどこで行われるのですか?」

「そりゃあ、魔導院がある魔導都市さ。君に断られたとしても、フローディアを連れて向かうつもりだったしね。早速行こうか」


 酒の代金をテーブルに置いて、スフィアは颯爽と歩き出す。フローディアとリアムも後に続き、その後ろを妖精達がついて行く。

 組合の前に止まっていた馬車は彼女が移動に使っているもののようで、ストレスが溜まらないように様々な改良を施していると自慢げに語られる。

 馬車の中は外見以上に広く、制約はあるが内部空間を弄って広げているらしい。それでも外見から想像できる広さの倍はあり、馬車の中でも悠々自適に過ごせそうだ。


『「飛んだ方が楽なのに」』

「それは妖精である君達だから出来る方法さ。人の域を超えられない私達は地道に歩いて…………いややっぱり面倒だ。()()()()


 妖精の不満に途中まで真面目に答えたスフィアだが、ふと窓の外を見て馬車の列を確認すると、何やら詠唱を唱え始めた。

 素早く唱えられた詠唱は聞き取りにくく、その内容を理解する前に魔法が発動し終わる。


「――さ、ここが魔導院だ。入ってすぐの受付で試験について訊ねれば、日程を教えてくれるはずだ」


 馬車を降りると、そこは魔導院だった……


「……一体何が」

「あ、あの、もしかして、転移の魔法ですか……?」


 リアムが先程の詠唱から効果を推察しようとする前に、フローディアが直接疑問を投げかけた。スフィアは実にさっぱりとした様子で、「そうだとも」と答える。


 現代の魔法に使われる言語とも、リアムが知る妖精語とも違う言葉で編まれた魔法は、人や物を指定した場所へ瞬時に移動させる転移魔法だったのだ。

 妖精達ですらその魔法に驚き、しばしの間呆ける始末。


「こ、これが魔導師……!」

「(あの日姿を消したのはこの魔法だったのか……)」


 フローディアは感激のあまり両手を組み、リアムはオーサスで彼女が姿を消した魔法の正体を知って納得する。


「さ、早く行くといい。試験の日に間に合わなければ、数ヶ月は待たされるからね」

「分かりまし――」

「ああそうそう。人前ならともかく、私達しかいないときは前と同じ口調で構わないよ。じゃあ、気を付けて」


 トン、と背中を押され魔導院の中に促される二人。

 スフィアが気を付けてと言った意味を知るのは……結構すぐだった。

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