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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
三章:魔導院入学試験
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王都リンフォード その一

 ――門を抜けると、そこは活気溢れる王都であった。

 門から続く道は大通りと呼ばれ、馬車が三台通ってもまだ余裕がある道を挟むように歩行者用の道が造設されている。人並みに押されるように、リアムはその道を行く。

 立派な建物が続くその道を歩けば、宿屋らしき看板を掲げた建物が増え、屋台を開く者の姿もちらほらと視界に映る。


 治安維持のための騎士はすれ違う人に挨拶しながら歩き、武器を携えた冒険者は仲間と談笑し、子どもが笑いながら足下を駆け抜けていく。

 屋台からは活気のある声が響く。美味しそうな匂いに釣られそうになるが、まずは組合だとリアムは頭を振るう。


 それから何時間以上も歩き通し、やっとの思いで冒険者組合に辿り着いたリアム達。

 人混みに流されて迷子になりかけたり、ふらふらとあっちこっちへ釣られそうになる妖精達を引き留めたり、とにかく時間が掛かった。

 王都リンフォードの冒険者組合支部は、これまで立ち寄った組合の建物を優に超えるその大きさを誇っている。これだけ建物が大きいのは、やはり王都だからだろうか。


『「わあ、広いわね。凄いわ」』

『「ひろーい!」』


 建物の中はやはり広かった。お洒落な壁の装飾や依頼板の大きさなど、これまでの支部とは何もかもが違う。併設されている酒場もどことなく優雅さを感じる。

 そして何よりも、魔法使いの数が違う。

 これまで立ち寄った場所では、魔法使いはせいぜい数人……片手で数えられる程度しかいなかった。しかし、ここでは見た目から魔法使いと判別できる者が、見えるだけで十数人以上……魔法剣士なども含めればもっといるだろう。


 屯している冒険者が身に付けている装備品の品質も、オーサスの町や城塞都市クロフォードの冒険者より上だ。依頼板に至っては壁だけでは足りずに追加のボードが用意されているほど。


「ん、新人か? ――って、鉄等級(アイアン)か。容姿で判断しようとして悪かった」

「見た目で侮られるのは今までにもあったのでいいですけど……何というか、凄いですね」

「だろう? 組合がこれだけの広さを持てるのは、各国の王都か魔導都市ぐらいだからな。自然と人も依頼も集まるのさ」


 銀等級(シルバー)の証を提げている青年はそう言うと、今度はどこから来たのかとリアムに訊ねる。

 出身地ではないことを告げてから、オーサスで登録し城塞都市を経由してやってきたと返す。


「オーサス! そして城塞都市か! 随分と遠くから来たんだな……となると、勝手が違うのもいろいろあるだろう。分からないことがあれば先輩冒険者に訊くと良い。王都で長年やってる人達なら、喜んで教えてくれるだろうさ」


 彼が視線を投げた先には、たしかに経験豊富そうな者達がいた。しかも金等級(ゴールド)の証を提げている者もちらほらと。


「僕もあの域に辿り着くのが目標なんだけど、まだまだ道が険しくて……君も頑張ると良い! じゃっ!」


 今度は依頼板に向かう。

 銅等級(ブロンズ)向けの依頼から、鉄等級、銀等級や金等級向けの依頼がずらりと並んでいる。その内容は多岐に渡り、中央の上ら辺には白金等級(プラチナ)向けの依頼まであるではないか。


 銅等級向けの依頼はやはり雑用ばかりだが、実入りが良さそうな薬草採取の依頼も並んでいるため、お金に困ることは無さそうだ。

 鉄等級向けの依頼は薬草採取や魔物の討伐、そしてその素材の納品などがある。ホーンラビットの素材を求めている依頼もあり、リアムはそれを手に取った。現物があれば受注したその場で達成扱いにすると、依頼書の端に書かれていたからだ。


 ちらっと銀等級向けの依頼に目を通すと、手元にある依頼書の数倍の報酬が記載されていた。その分危険度も上がるようで、どう見てもヤバそうな魔物の素材を欲しがっていたり、長期間の護衛依頼だったり、数は少ないが貴族からの依頼も混ざっている。


「次の方ー」

「これを受けたいんですけど」

「はい。現物はありますか?」

「道中で狩ったものがここに……」


 受付に依頼書と、ホーンラビットの素材を入れた容器を置く。受付嬢はそれらを確認すると、依頼書に完了の判子を押して報酬をリアムに渡す。半銀貨一枚だ。

 半銀貨は、銀貨一枚には満たないが銅貨五〇枚以上の価値がある。つまり、銅貨五〇枚が報酬だ。


 報酬を受け取った後は、お腹が空いたと訴える妖精達とともに店を探す。

 妖精は食事を必要としないが、リアムと一緒に過ごした彼女らは好んで食事を摂る。人と同じ時間帯に人と同じだけの量を口にする。

 近くの冒険者にいい店はないか訊くと、組合の裏の店なら味も量も値段も文句無しだとオススメされた。


「――空いてる席にどうぞ~!」


 オススメされた店は大変混んでいて、人数分空いている席を探すのに一苦労した。ちょうど四人分、テーブル席だ。


 リアムが席に座ると、すぐさま妖精達が姿を現して残りの席を占領し、我先にとメニューを手に取った。


『「これとこれと……これが食べたいわ!」』

『「私はこっちー!」』

「…………これ」


 店員を呼び出すと、彼女達はそれぞれが食べたいものを指さして注文する。

 リギルは香草を詰めて焼いた鶏肉に、野菜がたくさん入ったスープ、黒パンを幾つか。ルーは分厚いステーキと具なしのスープ、メルディは蝙蝠の姿揚げとハーブティーだ。

 その勢いに押されかけた店員だが、ちゃっかりこれもオススメですよと品を増やす。


 リアムは無難に肉野菜炒めと黒パンを頼んだ。水は備え付けの容器から自由に移して飲んでいいらしい。

 料理は直ぐに運ばれてきた。


『「わあ! とても美味しそうよ! 早く食べましょう?」』

『「食べる食べるー!」』


 丁寧にナイフとフォークを使い、上品かつスピーディーに食べるリギル。その顔は喜びで溢れており、一口食べるごとに美味しい美味しいと呟く。


 ルーは大きな皿を占領するステーキを大きめに切り分けると、口を大きく開けてガブッと食べる。半透明なため口に入ったものが通っていく様が見えてしまうが……胸元までいくと一瞬で消えてなくなる。


 メルディは彼女達ほど露骨に態度に出ないが、一つ、二つとバリバリ食べる。リアムが思わずうわぁ……と感じる料理だが、メルディはとても喜んでいる様子だ。


 そしてリアムは、彼女達の嬉しそうな様子を視界に収めながら、自分に運ばれた料理を口にする。シンプルだがいい味付けだ。使われている肉からも旨味を感じられる。


「銀貨二枚と銅貨四八枚になりまーす……銅貨二枚のお返しになりまーす」

『「とても美味しかったわ。また食べたくなるくらい」』

『「もっかい来るねー!」』

「はい、妖精達にも気に入って頂けて何よりです」


 料金を支払い、リアム達は店を後にする。


 次は宿だが――大通りにある宿は表に金額を明記しており、最低でも一人一泊で銀貨一枚であった。妖精達の分を含めれば一泊で四枚となる。

 払えないわけではないが、懐には余裕を持たせておきたいため、リアムは大通り以外の宿を探すことにする。


「出来れば静かな宿がいいんだよね。あとベッドが大きいところ……離れるのは――」

『「嫌よ。くっついて寝たいもの」』

「……だよね」


 さも当たり前のように答えるリギル。ルーとメルディもリアムから離れたがらず、これまで泊まった宿でも一つのベッドで就寝していた。

 街が変わってもそこは変わらず、リアムもそんな彼女達を可愛いからとつい許してしまう。


 それから更に一時間ほど……

 日が暮れてから「人に訊いた方がいいんじゃ?」と気が付き、治安維持の騎士に安くていい宿を訊くリアム。


「ああ、それならあそこが評判良かったはずだ。たしか、小鳥の羽休め亭だったか……? この通りをあそこで曲がって――ああいや、案内した方が早いな」


 さすがに言葉だけでは辿り着くのが難しいのではと騎士は考え、彼は自ら案内を買って出た。

 彼に着いていくと、リアム達は大通りから外れて幾つか路地を抜けた先にぽつんと建つ、大通りの宿よりは小さい宿に辿り着いた。


 宿には“小鳥の羽休め亭”の看板が掲げられており、一人一泊で半銀貨一枚と良心的な値段が書かれている。


「ありがとうございました」

「いやいや、これぐらいお安い御用さ。何か困ったことがあればまた助けになるよ。もちろん、私以外の騎士もね」


 騎士は片手を上げて礼を示すと、治安維持の任務に戻っていく。

 リアムは早速、宿に入って部屋を取る。


「何人ですかー?」

「四人です。この子達がいますので」

「……妖精ですかー。……え妖精!? わー、私妖精さんと会うの初めてなんです!」


 綺麗な二度見をされた。しかもぐいぐい迫ってくる。


「あの、値段……」

「あ、はい! 四人ですと銀貨二枚です! 何部屋取りますか?」

「部屋は一つで大丈夫です。大きいベッドがある部屋か、もしくは二つ置いてある部屋はありますか?」

「あー……えっと、うちは大きいベッドは無いですねー……二つ置いてある部屋はありますけど、半銀貨高くなりますよ?」

「構いません。そこでお願いします」

「はーい! 銀貨二枚と半銀貨一枚になりまーす! お部屋の鍵はこちらで、備え付けの家具はご自由にお使いくださいねー! それと、あ、握手させてください! 妖精さんと!」


 元気いっぱいな彼女とウマが合うのか、にぱーと笑顔なルーが快く握手に応じた。


「もう! この手は一生洗いません!」

「いや洗ってください……」


 まるで英雄とばったり遭遇した町娘のような反応だ。遭遇したのは妖精だが、ある意味英雄以上の存在と考えればリアムもその態度に納得は出来る。

 手を洗わない宣言にはさすがに突っ込んだが。


 ともあれ宿は確保できた。

 魔導院への推薦状があるとはいえ、実際どうすれば入れるのかをリアムは知らない。翌日は観光ついでに探すことになるだろう。

 当たり前のようにリアムにくっついて寝る妖精達を軽く抱きしめながら、彼はゆっくり熟睡するのであった。

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