二章エピローグ
――それから、リアム達は証拠となる盗賊の死体を可能な限り回収し、城塞都市へ運び込む。盗賊の死体は人数確認だけしてそのまま燃やされるが、味方側の死者は墓に葬られ、負傷者は教会が運営する運ばれて治療を受けるだろう。
「ま、まさか……本当に…………?」
「はい。“首狩りバンデッド”の討伐に成功しました。念のため、妖精達に残党がいないか確認させていますが……恐らく大丈夫かと」
帰ってから、リアムはまず冒険者組合へ報告した。
冒険者はたとえ誰であろうと冒険者組合所属であり、今回のような重要事項は組合への報告が義務付けられているからだ。
報告を聞いた受付嬢は、伝えられた内容を頭の中で反芻し、徐々にその重大さを理解する。
「ほ、報酬をお持ちします!」
賞金首が討伐されたのだ。ならば賞金を渡さないわけにはいかない。
しかし、“首狩りバンデッド”の総数は不明のままだったので、すぐに全額が用意されるとはならなかった。
「人数を確認しておりますので、一先ずこちらを」
そのため、用意されたのは金貨五〇枚だけ。首領の討伐報酬である。その他の人数が確認しきれておらず、また残党が残っている可能性もあるためだ。
そしてその報酬を、リアムはアルデバランに手渡した。
「いいのか?」
「はい。首領を倒したのはアルさんなので」
「……そうかい。すでに代金は貰ってんだが、まあ、くれるんなら貰っとくぜ」
ジャラジャラと袋を鳴らし、アルデバランは去っていく。彼は冒険者ではないし、ましてや善意から協力した善人でもない。白金貨一枚で雇われたならず者だ。
契約が終われば去るのは当然。今回はそこに、リアム経由で討伐報酬が渡されただけのこと。
「――んじゃアタシは行くっすねー」
「……冷静に考えてみたんだが、俺達シュナイダー兄弟は雇われた側だしな。俺達の分は全部リアムさんが受け取ってくれて構わない」
「む? 我も金貨を貰っていたな? ならば我の分もやるぞ! ふはははは! これが強者というものなのだ!」
「…………俺も構わない」
すると、リアム以外の面々が次々と報酬の受け取りを辞退し始めた。
ホロウは“月下狼”の一員になれるため報酬は要らず、シュナイダー兄弟は雇われる際に金貨を五枚ずつ受け取っているため必要無いと、イルムルンリガルドも金貨を貰っているからと受け取りを拒否。
ヴォールは口数が少なく判断しにくいが、彼も辞退する意思を見せる。
「あの……? それでは誰にお渡しすれば……?」
合わせればかなりの額となる賞金を次々と辞退する彼らに、困惑した顔で受付嬢が訊く。
組合は報酬を設定した時点で必ず渡さなければならず、そもそも大抵の冒険者はお金を目の前にして辞退しようとは考えない。
「んー、アタシの分はリアムさんに渡せばいいっすよ」
「俺達シュナイダー兄弟のもな!」
「我のもだ!」
「……ああ」
しかし、彼らは報酬を辞退した。ならば必然的に、残りの報酬は全てリアムが受け取ることになる。
リアムの所持金は銀貨数枚……貰えるのなら是非欲しいと言いたくなる金額だが、良心が待ったをかける。
「あの、俺はいいので――」
「――リアムさん、俺達はあんたに雇われたんだ。自分で動いたわけじゃねぇ。だからあんたが受け取るべきだ」
だが、リアムが辞退しようとするとシュナイダー兄弟の兄がそれを止めた。
自分から行動したリアムにこそ受け取る権利がある。“月下狼”も雇われた側だが、彼らはそもそも冒険者ではないのでこの理論は通じない。
リアムが言い訳しようとしても、シュナイダー兄弟が、ホロウ・ルナールが、イルムルンリガルドが、ヴォールが、口々に告げる。「いいから受け取れ」と。
「――では、残りの報酬が定まりお支払い致しますので、名前と役割をこちらにお願いします」
根負けしたリアムに受付嬢が一枚の用紙を渡す。
それは“首狩りバンデッド”の討伐報酬が誰に渡されるのか組合が把握するための用紙であり、教会が発行する誓約書でもある。
つまり、誰が何を受け取るのかを神々が確認し、誰であろうと裏切ることの出来ない効力を発揮するのだ。
リアムはその用紙に自分の名前、役割を記入する。役割とは、自分が何を得意としているのかを表すものであり、リアムの場合は魔法使いとなる。
本人かどうかは神々が判断するため、詳細に書く必要は無い。
「……はい、確認しました。お渡しする報酬は国内であればどの支部でも受け取れますので、その際はこちらを提出してください」
リアムは割符を受け取った。冒険者組合で使われる割符には幾つかの種類があるが、リアムが受け取ったのは魔導具の割符である。
これはサンドーラ皇国で生産されたものを組合が買い取っているのだが、その詳細は冒険者には伝えられない。割符を悪用されては困るからだ。
ちなみに、転売した場合は冒険者組合に指名手配される。
「では最後に……“首狩りバンデッド”を討伐して頂き、ありがとうございました」
深々と頭を下げる受付嬢。組合員ではなくこの街に住む一人の人間としての感謝だ。そこに邪な気持ちは一切無く、リアムはやってよかったと思うのだった。




