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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
二章:首狩りバンデッド
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殺し合い、戦場にて 閑話:アルデバラン対ヴェラード

 ……少しばかり遡る。アルデバランが“首狩りバンデッド”の頭率いる集団とぶつかった瞬間だ。


「そら!」

「ちぃっ!」


 アルデバランがボーラを投擲し、それを防ぐ“首狩りバンデッド”の頭。しかし防がれることは予想済みらしく、分厚い短剣で追撃を仕掛けた。


 ぶつかった衝撃で危うく体勢を崩して落馬しそうになったが、すぐに立て直す。

 ……しかし、ほんの少し考えてアルデバランは馬を降りた。騎乗したままではリーチのある相手が有利というのもあるが、それより自分の得意を押し付けにくいと思ったからだ。


「ほら、俺は馬を降りたんだぜ? お前は降りないのか?」

「誰が降りるか! 俺は楽して勝ちたいからなあッ!」

「へー? じゃあ腑抜けって訳だ。こんな腑抜けが頭とは、てめえら全員揃って目ぇ腐ってんじゃねえのか? ああ、元々腐ってたか!」

「――殺すッ!」


 アルデバランの安い挑発にまんまと引っ掛かった“首狩りバンデッド”の頭。彼は怒り心頭といった様子で馬から降りる。どうやら煽られ慣れていないらしい。


「おいおい、冥土の土産に名前ぐらい名乗れよ。じゃねえと、腑抜けた糞みてぇな馬鹿共を従えて有頂天のアホ野郎にやられましたって、あの世の神様に言えねぇじゃねえか」

「……………………ヴェラードだッ!!!」

「ヴェラードぉ? あの疾風怒濤のぉ? 名乗るにしてももっと相応のモンあったろうに……泥鼠とかなあ!」


 そう口で煽りながら、鉄球や鎖鎌でしつこく攻撃するアルデバラン。一体どこから取り出しているのか、明らかに劇物だと分かる薬品や大量の細い針なども投擲物の中に混ざっている。

 しかしそれらの殆どをヴェラードは鎧の性能に任せることで無視し、アルデバランの懐に入り込もうとする。沸点が低いが頭をやっているだけある。その判断は正しく、アルデバランも内心で評価を上げる。


「(コイツの武器は……ツーハンデッドソードか。間合いに入りにくいか?)」

「(面倒な道具を使いやがって……しかもヤバいモンがあるせいで全部受けきるわけにもいかねえし……)」

「(だが投擲物の殆どは効かない……鎧で受けて防いでやがる)」

「(間合いに入れば俺の勝ちは揺るがないだろうが……下手すりゃ入る前に殺られるな……)」


 激しい金属音が立て続けに鳴る。

 鉄球は使い捨てるもの。アルデバランは大量の鉄球を投擲しては投擲し、投擲する。そして時々劇薬も混ぜるため、ヴェラードも気を抜けない。

 彼らの口から出るのは罵倒の嵐だが、その内心ではお互いに考えを巡らせている。


「そこだ!」

「おおっと、あめぇ――ぶっ」


 ヴェラードの振り下ろしからの斬り上げをすれすれで躱し、膝の裏へナイフと投擲しようとしたアルデバラン。だが驚くべきことに、ヴェラードは剣から手を離すと拳を右横へ勢いよく振るった。

 頬へ直撃を食らったが、しかしアルデバランは自ら吹っ飛ばされることでダメージを減らす。その際に投げナイフを二本投擲したが、体勢が崩れていたため狙いから若干ズレてしまう。


「っつ……!」

「ちっ、外れか」


 一本は膝の横を掠り、もう一本は親指と人差し指の間を掠った。痛みはあるが我慢しようと思えば我慢できる程度だ。

 しかし、長時間剣を握るのには不都合だろう。ヴェラードは早く片を付けたいと考えた。


「ほら、お代わりがお望みか!?」


 だが、考える時間はすぐに消え失せる。

 アルデバランが劇物の入ったガラス瓶を投げつける。それまでのように躱すヴェラードだが、この劇物はむしろ弾くべきだった。


「なっ!?」


 ガラス瓶が地面に着弾し割れると、中の劇物が急速に気化して煙となる。液体が気体となるのだからその量は圧倒的で、瞬く間に周囲を覆う。

 含まれているのはもちろん毒だが、アルデバランは奥歯に仕込んでいた解毒剤を噛み砕くことでその中を突っ切る。

 一方、ヴェラードは適切な解毒剤を持ち合わせていないため、口を塞いで外へ外へと逃げる。


「――おらよっ! 劇物のお代わりだぜ!」

「~~~~~!?!!?」


 しかしそうは問屋が卸さない。簡単に逃げられてはたまらないので、アルデバランは次々と同じモノを投擲し、ヴェラードに毒を盛っていく。


「(くそっ! こうなったらアレを使うしか……!)」


 視界が揺れ始め、ヴェラードはこれまで使わずにとっておいた切り札を切る決意をする。このままでは命が危ういと判断し、自分が助かるのなら高価な品だろうが使い捨てると判断したのだ。

 懐から取り出したのは一つの魔導具。カットされた大粒のルビーだ。


「(仕方ねぇ)……っ、〈広域(ラートゥム)爆発(・フラルゴ)〉!」


 それを後ろへ放り投げると、宝石は大爆発を起こして煙を散らす。

 この威力の高さから、元々は最終手段として城塞都市の壁を破壊するために用意したものだ。しかし、その手を打つ前に城塞都市は疲弊し、そして“首狩りバンデッド”は壊滅に追い込まれている。


 爆発に吹き飛ばされるようにゴロゴロと転がり、ヴェラードはいつの間にか林の外へ出ていた。


「……ふぅ」


 周りにあの煙が無いのを確認し、胸を撫で下ろす。あの爆発で上手いこと殺せていれば……とも思ったが、現実はそう上手くいかないらしい。


「がぁっ、は……っ!」


 細い針が飛来する。目に見えないほど細い針だ。目を凝らせばなんとか……? と感じるほど細い。そしてそれを放った者が誰なのかは見当がつく。


「うちの参謀お手製の神経毒だ。致死性だが死ぬまで少し時間掛かるぜ」

「く……そがぁあ…………っ!!! なん、なんで……だよ……! 夢ぐらい、か、か、叶えさせろ、よなあ……ぁ……!」

「ほう、流石エーリカ製だ。もう呂律が回らなくなってきたか」

「あ、あが…………」


 最期にビクンっ! と痙攣しヴェラードは事切れる。

 口から泡を吐いている。逃げる際に使った魔導具も切り札だっただろうが、結果として自分の首を絞めただけだった。


「自分で用意した道具の効果ぐらい、把握しとけってな。あんなんじゃ自分も巻き込んだ挙句、爆風と音で何も見えない、聞こえないでダメになるだろうが」


 そう呟くと、林の上辺りがガサガサと揺れる。リアムが空を飛んで来たのだ。

 彼の姿を確認すると、アルデバランは依頼完了だなと一言告げてタバコを吸い始めた。


「……ええ、そうですね」


 ヴェラードが死んでいるのを確認し、リアムはその言葉に同意した。“首狩りバンデッド”が討伐された瞬間である。

 これで“月下狼”はリアムと交わした契約を果たしたことになる。他の雇われた冒険者も、ホロウ以外は一回だけ共に仕事しただけの他人になる。

 城塞都市クロフォードの影に住む住人の一人として、そして“月下狼”の頭として、アルデバランは独り快晴を見上げて思う。


「(ほんっと……腹立つぐらい良い天気だよなぁ)」

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