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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
二章:首狩りバンデッド
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契約、契約、契約

「……いや、座れとは言ったけどよ……まあいいか。で、客としてきたからには要件があるんだろ? 言ってみろ」

「そうですね。では単刀直入に言いますが――人手を貸して欲しいのです。出来るだけ大人数を」

「それはあれか? 賊共を倒そうってか?」

「はい。その通りです」

「そうかそうか――って、素直に応じると思うか?」


 打って変わって凶悪な威圧を発し、男はリアムを睨み付ける。

 男の言うことは尤もであり、城塞都市を包囲し孤立させる手腕を有した賊を相手に人数だけ増えても無駄だからだ。男はそれを分かっている。

 犯罪組織だろうが正規の組織だろうが、部下の命を預かっている頭はそう軽々と安請け合いしないのだ。


「……テメェ、その年で怯えねえとかどんな神経してやがる」


 しかし、リアムはその威圧に怯むことなく、むしろ殺気を返すほど余裕があった。無論、男もこの程度の殺気に怯えるような玉じゃない。

 それでもリアムの異様さは身に染みて分かったようで、男は溜息を吐いて煙草を吸い出した。


「――で、いくら出せる?」


 しばらく熟考して考えを纏めた男は、改めて話し合いの席に着くと開口一番そう言った。信用できる相手だとしても、金が無ければ話にならない。そして、男は最低でも金貨五〇枚は無いと動かないつもりでいた。


 だが、男はリアムの行動に度肝を抜かされる。


「……白金貨一枚」

「…………現物はあんのか?」

「ここにありますよ。ちゃんと一枚。良ければ手に取って確認しますか?」

「いや、いい。よほどの技術でも無けりゃ偽造不可能な硬貨だからなそいつは。つか、そんな大金持ち歩くとか正気の沙汰じゃねえぞ」

「置いて出歩く方がよっぽど危ないのでは?」

「……考えによっちゃそうだがよ。普通は持ち歩かねえぞ。…………はあ。ま、金さえきちんと貰えるなら異論はねえ。“月下狼”、総勢一〇〇と余名好きに使いな」


 そう言うと、男は餓えた狼のような笑みで握手を求める。短い交渉の時間だったが、リアムを信用できる雇用主と認識したらしい。

 リアムも握手に応じ、取引が交わされる。詳しい契約内容や計画の全貌を伝え、最後に自己紹介することになった。


「――俺はアルデバランって名だ。こんな形式で悪いが、裏世界の規則みたいなもんでな。気軽に名乗れねえのさ」

「俺はリアムです。今回限りですけど、よろしくお願いしますね」

「応。俺としても、妖精と契約してる魔法使いと縁が出来て嬉しい限りだぜ。よろしくな」




 アルデバランと別れた後、リアムは次に冒険者組合に向かった。賊退治の計画の準備もあるが、念のために賞金首の情報を確認するためだ。

 もし増えていたなら、それはリアム達にとって拙いことになる。その場合、十中八九“首狩りバンデッド”の戦力が増えることになるだろう。敵の敵は味方という言葉は何も、正義の側にだけ当てはまるとは限らないのだ。


「……変わらないけど、また報酬が増えてる」


 “首狩りバンデッド”の賞金額は一人倒すごとに金貨一枚、首領は金貨五〇枚にまで吊り上げられていた。全滅報酬は変わらず一〇枚だが、全部合わせれば白金貨一枚以上の値段は確実となる。

 ……盗賊としては類をみないほどの額だ。歴史的盗賊として間違いなく後世に悪名を残すだろう。


「(受注するか……いや、“月下狼”の戦力だけじゃ足りない可能性もあるし、冒険者の協力も欲しい……けど、俺が出せる報酬は使い切ったし……)」


 所持金の内、リアムは白金貨を“月下狼”への報酬として提示した。交渉した以上減らすことは出来ないため、残りの銀貨数枚でやりくりしなければならない。

 だが、銀貨数枚では冒険者は雇えない。銀等級でさえ適わない相手に、銀貨数枚で命を賭けれるような人間は早々いないのだ。


『「ねえ、あのヴォール? には手伝って貰わないのかしら?」』

「もちろんヴォールさんにも手伝って貰いたいけど……お金がな」

『「じゃあ集めてこようかしら?」』

「盗むつもりでしょ? ダメだよそれは」


 しかしお金を稼ぐ方法が無いのも事実。組合に貼られている依頼は雑用ばかりで報酬は銅貨ばかり。他にお金を貸してくれるような人物は……と考えたところで、リアムの脳裏に一人の顔が浮かんだ。

 リチャードである。


 もちろん彼は商人なので、利が無ければ協力してくれないだろう。だが、商人だからこそ金に代えられないモノを大事にする。

 リアムとリチャードの間には、失われれば取り返すことの出来ない信頼という宝があるのだから。


「――というわけで、手伝って貰えると助かります」

「なるほど、資金ですね。たしかに銀等級を雇えるだけのお金はありますし、リアムさんになら貸すの吝かではありません。どちらにせよ、盗賊を片付けなければ街から出られませんし……ですが条件があります」


 すると、彼は白紙の紙に何やら書き加えていく。


「リアムさんの作戦が成功すれば、貴方は間違いなく名を馳せるでしょう。一地方とはいえ、名を馳せるのは簡単なことではありませんので」


 契約書が完成する。その内容はリアムとリチャードの間での資金の貸し借りだが……驚くことに、金貨二〇枚に上る貸し借りだというのに関わらず利子は不要。しかも返済期限も設けないと書いてある。

 代わりに対価として書かれているのは、リチャードが店を持ったら贔屓にすることと……可能であれば妖精由来の素材を少しばかり融通すること。


 妖精由来の素材とは、妖精の肉体の一部という意味ではなく、彼女らしか採取することの出来ない希少な蜜や植物、または鱗粉などのことである。これは妖精達にとっては在っても無くても変わらないものなので、リチャードにどんな思惑があろうとリアム達が不利益を被ることが無い。


 そこまで見越したのか、それとも単純に欲しかったのか。可能であればと言う文言を信じるならば後者だろうか。


「これだとリチャードさんに利が無いんじゃ……」

「いいえ、利はあります。リアムさんが有名になり私の店を贔屓にすれば、自ずと私の知名度も上がりますからね。そしたらお客も増えて利益だらけです」

「……ありがとうございます」

「お礼を言いたいのは私の方なんですけどね。ではサインを」


 リチャードから契約書を受け取り、サインをする。

 これで二人の間に契約が交わされたことになる。リアムはリチャードから金貨を受け取り、そのお金でヴォールを雇うことに成功する。


 ……尤も、ヴォールはヴォールで動くような者がいれば手伝うつもりでいたらしく、金貨一枚貰えれば良いと言っていた。“首狩りバンデッド”が倒せれば賞金が入るため、少なくても構わないそうだ。


 では残りの一九枚は使わないのかと言うと、それは違う。

 アルデバランのところで契約の一部として幾つか情報を受け取っており、残りの金貨は都市内にいる有望そうな冒険者に使うつもりだ。

 自発的に動かない者達ではあるが、臆病なのではなく機を窺っているのではとアルデバランは予想していた。


『「――いたわ」』


 その情報を元にリギルに捜索して貰うと、彼女はものの数分で目的の人物を割り出した。情報の人物は全部で四人。人間種が二人に魔人種が一人、狐の獣人種が一人である。

 身に付けている装備から性格まである程度の情報がアルデバランから渡されており、人間種は戦士と魔法使いが一人ずつ、魔人種はとうぜん戦士、狐の獣人種は少し珍しい呪術師だそうだ。


「――“首狩りバンデッド”の討伐だと? やだね誰が手伝うか」

「……いやちょっと待て。人数は?」


 リアムはまず人間種の二人から当たることにした。彼らは当然のように拒否したが、魔法使いの方が作戦に協力する人数を確認する。人数次第ではもしかしたら、と考えたのだ。


「一〇〇人以上。銀等級相当の実力者は一〇人いる」

「…………兄貴、受けるべきだ。もしかしたら行けるかもしれない」

「……お前がそう言うならそうなのだな。――よし、分かった。俺達シュナイダー兄弟、協力してやるぜ」


 成功だ。リアムは彼らに金貨を五枚ずつ支払い、日程を伝える。

 次に向かったのは狐の獣人種のところ。少し厄介な性格だが、どちらかと言えば“月下狼”に近い立ち位置だそうで、終わった後は彼らが幹部待遇で向かい入れると伝えると彼女は快く協力すると言った。


 そして最後に魔人種のところだが……


「我に協力して欲しいとな!?」


 暢気に飯を食べていた。しかも既に大皿で何枚も食べている。一体どこに入るのか気になったリアムだが、それよりも盗賊共のことだと協力を再度頼み込む。


「んぐっ、あむ…………飯が食べられるなら喜んで手伝うぞ! そう、この我がな! ふはははは――ゴホッ! ゴホッゴッホエェエ!」


 少し……いやかなり心配になる絵面なうえ、仮にも少女が見せてはいけない光景を見せかけた彼女に些かの不安を抱きつつも、リアムは金貨を渡して日程を伝える。


 頭は悪いが戦力としては一級品らしく、この街に滞在中の冒険者としてはかなり強いらしい。全てアルデバランからの情報だが……リギルの姿を見て目を輝かせた辺り神秘の保有量は多いらしく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため頼りにはなるだろう。


 そして翌日。“首狩りバンデッド”の討伐のため、リアムは“月下狼”の拠点である酒場に主要なメンバーを集めて作戦会議の場を設けるのだった。

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