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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
二章:首狩りバンデッド
18/38

準備期間

「――くそったれ! 逃げ場は与えないってか!?」


 満点の青空の中、一人の衛兵が叫ぶ。城塞都市からここまで馬に乗って駆けてきたが多数の盗賊に襲われ、遂に落馬させられ脚を負傷してしまったのだ。矢を射掛け衛兵の男を落馬させた盗賊が足早に駆け寄り、その首に刃を当てて首を斬り落とす。

 その激痛に衛兵の男は悲鳴を上げるが、それはすぐに失われる。

 一方、盗賊は吹き出す血を気にする様子は見せず、これは俺の戦果だと自慢するようにその首を空叩く掲げた。


「へへ、衛兵の首ゲットー♪」

「オイ、テメエだけ狡いぞ」

「はっ! 早い者勝ちなんだよこうゆうのは!」


 僅かに遅れて来た仲間が愚痴を言うが、男は自慢げに首を見せつけ反論する。彼らの周囲には一〇人以上の仲間がおり、次の獲物が来ないか周囲を見張っているが、救援を求めようと街を飛び出た者は(すべから)く皆殺しにされたため城塞都市から出てくる気配は無い。

 中には馬に乗った者や金属鎧を身につけた者までいる。


 ――そう、彼らこそが“首狩りバンデッド”。獲物の首を狩り、その首を掲げて他者を威圧する盗賊。


「おら退却だ! 首狩ったなら頭んとこ持ってって飾り付けろ!」

「「「へい!」」」


 しばらくして獲物は来ないと悟ると、彼らは数名の仲間と一頭の馬を残して根城へ退却していった。

 この状況は一週間以上続いており、城塞都市の内部では食糧不足が懸念され始める事態になっている。活気は失われ、住民も暗い顔で俯くばかり。

 城塞都市の壁の中から望遠鏡で残酷な行為を目の当たりにした衛兵は、思わず高価な望遠鏡を落として涙を流した。


「……くそっ、ケニーの馬鹿野郎……!」

「泣くなマルフォイ。あいつは勇敢に散っただろ……」

「…………ああ、そうだな……そうだなミッコ……!」


 ……衛兵でさえ仲間が無残に殺されて泣く始末。しかし、マルフォイとミッコの二人は泣きながらも外の監視を継続する。

 どれだけの困難があろうと、苦難に襲われようと、彼らは自ら志願してここに居るのだから。




 ……リアム達が城塞都市に来てちょうど一週間。十手を絡めた独自の戦い方を無理やり体に叩き込んだ彼は、街の中を散策していた。

 途中でリチャードの店の近くを通るが、食料品は軒並み売り切れて行商人である彼は暇そうにしている様子だった。視線が交わって会話せず立ち去るのも何なので、リアムは馬車の近くに寄って空中に座り込む。


「君はいつからそんなことが出来るようになったんですか……」


 尤も、その様子にリチャードは呆れたが。しばらく間が空いてリチャードが口を開く。


「何も出来ないって暇ですねえ……」

「そうですね。でも、俺はなんとかしたいと思ってます」

「……そうだね。私はしがない行商人だから直接は手伝えないけど、応援するよ」

「ありがとうございます。……では」


 会話もそこそこに立ち去ろうとすると、「ちょっと待って」とリチャードが引き留める。何か用事があるのかと気になったリアムだが、彼に渡されたのは一枚の紙切れ。


「少し街中の勢力を調べたんだけど、一時的な契約上の仲間としてなら信用できそうな組織があってね……場所と合言葉を書いておいたから、もし人手が欲しかったら頼ってみても良いんじゃないかな?」


 耳の側に口を寄せ、小さな声でそう助言するリチャード。間接的になら手伝う、と言うことだろう。実際リアムは人手を欲しがっていたし、これは渡りに船と言える。


 リアムは早速その場所に向かうこととした。その場所というのは、城塞都市中心の城を一番良い角度から眺められる路地裏の高い建築物……の地下で経営されている酒場。端に小さく、情報屋としても機能しているらしいと付け加えてある。


『「地下はあまり分からないわ……大丈夫かしら?」』

「警戒はするけど……リチャードさんが勧めるなら大丈夫だと思うよ」


 道中でリギルに心配されたが、リアムには彼が嘘をつくとは思えず、その言葉を信用することにしていた。一個人として、リチャードという人間は信用できるのだとリアムは思っている。


 それから件の酒場に辿り着く。道中の路地は入り組んでいたが、リギルの道案内があるため迷うことは無かった。

 建物の入り口は他の建物と何ら変わりないが、施錠されている様子は無く、軽く力を入れると簡単に開いた。二階への階段と地下への階段以外何も無い一階である。


 リアムは深呼吸してからフードを被り、ゆっくりと階段を降り進む。降りた先にあるのは少しばかりお洒落な扉。開けるとカランカランと鈴が鳴り、店員に来客を知らせる。


「――こんな時に珍しい。いらっしゃい、席なら空いてるよ」


 店内はガランとしており、静かに酒を呑む数名の男と綺麗な曲を奏でる吟遊詩人以外、客はいなかった。

 悲壮感漂う曲を聴きながら、リアムはカウンター席に座る。


「……注文は?」


 バーテンダーがちらっと視線を寄越し、注文を聞いてくる。

 しかし、リアムはそれに応えず、音を立てないようにカウンターに指を立てて抽象化された紋章を描く。言葉を用いない合言葉がリチャードに勧められた組織への客である証であるらしく、バーテンダーに見せれば通して貰えるという。


「…………その品は奥にある。私は仕事があるので、済まないが取ってきて貰えるか?」

「……分かりました」


 どうやらちゃんと通じたらしく、バーテンダーは表情一つ変えずにリアムを奥に通した。

 カウンター横の扉の奥から目的の人物の部屋に行けるようで、バーテンダーに視線で確認すると彼は軽く頷いて肯定する。


 扉の先はよくある石造りの通路で、酒を保管している酒蔵に続いているとしか思えないだろう。だが、リアムは通路の途中で立ち止まると、壁に手を当てて軽く押した。

 すると、石造りであるはずの壁はその姿を木造の扉へと変えていった。魔法による隠蔽がされていたのだ。


『「複雑だねー」』

『「手順が多くて面倒だわ」』


 この仕掛けは妖精達には不評のようだ。……まあ、妖精眼を持つ彼女達に隠蔽なぞ通じないのだから当然なのだが。

 扉を押して奥に進むと今度は頑丈な作りの梯子が姿を見せる。これで二階に行けということだ。


 そう、この建物の一階にあった二階への階段はダミーであり、こちらからでないと目的の部屋に辿り着けないようになっているのだ。ちなみに、一階からそのまま進んだ場合は寂れた空き部屋に着くだけである。


「……客か。通れ」


 目的の部屋の前には屈強そうな男が二人、門番のように立ち塞がっていたが、正規の手順で上がってきたのを確認すると簡単に部屋へと通した。


「――こんな時に客たぁ、珍しいな。しかもこんな若造が……まあいい。とりあえず座りな」


 建物の外観からは想像できないほどお洒落な部屋の奥には、一人の男が高級そうな椅子に座っていた。

 彼こそがリチャードがリアムに教えた組織の頭であり、リアムが考えている仕事を頼む相手だ。

 口では若造と、侮っているように捉えられる発言をしているが……その言葉には全く逆の、リアムを警戒しているような気配が感じられる。


「……では、お言葉に甘えて」


 対するリアムは、なるべく堂々とするように心がけて促されたとおりに座った。――但し、空中にである。

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