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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
二章:首狩りバンデッド
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賊の襲撃

 夜が明ける。予想と反して賊の襲撃は無く、焚き火の後始末をして一行は再び進み出す。

 リチャードは辺境で活動していただけあってあまり疲れていないが、まだまだ経験が足りないマヤやリアムは疲労感を感じ始めていた。

 ヴォールは経験から来る慣れからか、やはり疲れている様子は無い。


「もうすぐ城塞都市ですが……襲われませんね」


 状況を訝しんだのか、リチャードは周囲に目を凝らしてそう呟いた。盗賊が身を潜めているのはリギルのお陰で明らかとなっており、彼らがこの馬車に狙いを付けているのは潜んでいる位置から明らかである。

 しかし解せない。なぜ包囲網の穴を前に作り、わざわざ逃げやすくしているのだろうか。


「挑発行為……の割には姿を見せませんし、意図が分からないですね。私のような行商人を襲わないメリットが彼らにあるのでしょうか」

「…………かもしれん。だが、賊にも頭の回るやつはいる」

「ですね」


 ――状況が変化したのは城塞都市が視界に入ってからだった。山なりに飛んできた一本の矢が荷台の屋根に刺さったのだ。


「――襲撃されているぞ!」


 いち早く気付いたのはヴォールだ。彼は声を張り、背に背負っていた戦斧を素早く抜くと二射目の矢を弾いた。

 同時にリアムが矢避けの加護を再現した魔法で荷台の後方を覆う。


「……数が多い! どこに隠れていたんだ!?」

『「土の中よ! 穴を掘って身を隠していたのだわ!」』


 盛り上がった丘の向こうから馬に乗った盗賊が最低一〇名。街道沿いの林や陰になって視認しづらい場所からは数えるのが面倒なほどの人数がわらわらと。

 彼らの大半は安っぽい武具に身を包んでいるが、リーダーらしき数名は磨き上げられた金属鎧を装備している。


「え、えっと、《暖かな日、揺れる影、煮えたぎる情熱よ》……〈炎魔法(フランマ)〉!」

「〈■■■■(絡め取れ)〉!」

「うぉお!? 変わった魔法使いやがるぜコイツ!」


 馬に乗らず徒歩で襲い掛かってきた賊の内、一番近くにいた者はマヤの魔法で火だるまにされ、集団の先頭にいる者はリアムが転ばせる。

 転ばずに踏みとどまった賊もいるが、彼らはすぐさまその魔法の使い手を見つけ出し後方に伝えた。


 ただの賊とは思えない行動の素早さに、リチャードは一抹の不安を覚える。もしやここまで襲撃してこなかったのは、疲弊させてから確実に仕留めるためだったのかと。

 そう考えたのは彼だけじゃない。リアムや、ヴォールでさえも同様の考えを持った。

 短い付き合いだが、今この場にあって彼らは目線での意思疎通が出来た。応戦せず逃げると決めたのだ。


「〈■■■■■(突風よ吹け)〉、〈■■■■■■(水よ洗い流せ)〉」

「……少し手荒だが許せよっ!」


 そうと決まればすぐに動いた。リアムが賊の動きを鈍らせた隙にヴォールがマヤを抱え荷台に乗り込む。その瞬間にリチャードは馬を全力で走らせ、リアムのお願いで動いた妖精達が一時的な加護を付与する。

 風と矢を避けるだけのシンプルな加護だが、平地で逃げる際にこれほど役に立つ加護はそうないだろう。一瞬でトップスピードに乗り、風が自ら避けていくお陰で馬車に一切の影響を与えずに駆けていく。


「せめて一人……!?」


 丘の向こうから馬に乗ってきた賊の一人が槍を構える。馬車は逃がしたが、残った魔法使いは何としてでも仕留めるつもりのようだ。

 しかし、リアムには幻想魔法がある。


「……ふっ!」


 大地を蹴り、軽々と賊の頭上へ舞い上がったリアムは、自らに槍を向けた賊の片腕を刎ねた。首を刎ねなかったのはそこまでの技量が無かったからだが、むしろ激痛で落馬した挙げ句に馬に蹴り飛ばされるほうが賊にとって不運だっただろう。

 リアムは生死を確認しないまま空を飛び、リチャードの馬車へ戻っていく。


「……よく抑えた方だ」

「はい。門まではあと?」

「ほんの少し、目と鼻の先ですよ!」


 スピードを落とさず駆けた馬車は門の内側へと疾走する。

 直前でブレーキを掛けたため、荷台に乗り込んでいたリアム達に少しばかり負担が掛かったが、幸い馬車には最初の矢傷以外の損傷は無く済んだ。


「――君達! 無事か!」


 城塞都市の衛兵が心配した様子で駆け寄ってくる。賊に襲われていた馬車が猛スピードで駆け込んできたのだから、色々な意味で心配しているのだろう。


「ええはい何とか!」

「……はあ、無事なのは良かったけど、せめて入る前にスピードを落としてくれないかなぁ……万が一を考えて」

「すみません、逃げることで頭がいっぱいでして……。ところで、あの盗賊は?」

「……最近東からやってきた盗賊だよ。我々を煽っているのか、街の近くで馬車を襲っては逃げるを繰り返しているんだよ。情けない話、冒険者組合に掛け合って賞金首として登録するしか出来ることが無くて……」


 はあぁと誰が見ても落ち込んでいるのが分かる溜息をついて、衛兵の彼は肩を落とした。


「……ああ、人的被害が無かったので行っていいですよ。原因も分かってますし、せいぜいが驚いたぐらいなので、事情聴取も大丈夫です。では、ようこそ……城塞都市クロフォードへ」


 どうやらお咎めは無いらしく、リアム達は達成報告書をリチャードから受け取って組合へ向かう。

 この城塞都市クロフォードは、当たり前ではあるがオーサスの町よりも大きい。しかし、街の付近に賊がいる影響なのか、活気で溢れている……とまでは言えなかった。


 街が大きければ建物も大きくなるようで、冒険者組合もまたオーサスより広い土地を有していた。中に入れば、やはり喧騒が聞こえてくる。

 受付に向かう途中でちらっと依頼板を眺めるが、衛兵の言っていた通りあの賊達が賞金首として並んでいた。通称は“首狩りバンデッド”らしく、報酬が他よりも高くなっている。


「おう、それが気になるか?」

「ええ。道中襲われたので」

「そうか、そりゃあ不幸だったな。……ま、それをやるのはやめといた方が良いぜ。銀等級が何人も返り討ちに遭ってやがるからな」


 くいっと彼が示した先には、悲壮感漂う様子で酒を呷っているパーティーが見受けられた。


「あいつらのリーダーと、あとソロの奴ら。賊共の首領に討たれて、しかも首を持ってかれたって話だ」

「……だから、首狩りなんですね」

「そうだ。だからまあ、死にたくなけりゃ街に籠もってな」


 そう告げてリアムの肩を軽く叩くと、彼は雑用の依頼を引っ剥がして行った。提げていた等級証も鉄等級のものだったので、銀等級が返り討ちに遭うような相手に挑む気概は無いのだろう。


『「……なんかやな雰囲気ね」』


 受付で達成報告書を提出した後、リギルがリアムに撓垂(しなだ)れ掛かるとそう言った。

 盗賊がいるために物流が途絶えかけ、物流が途絶えかけているために活気が失われる。城塞都市とは言っても、対魔物用に建設されたもので対人は想定していないため領主お抱えの騎士以外の戦力は乏しく、その領主も保身のために騎士を動かそうとしない。


 気まぐれでリギルが集めた街の様子は、リアムの想像よりも酷かった。


「銀等級が返り討ちに遭ったせいで、他の冒険者は尻込みしているのですか……」

「はい……お恥ずかしながら、滞在している冒険者の方々もそこまで腕が立つという訳ではなく……」

「(…………“首狩りバンデッド”は一人につき銀貨五枚、首領は金貨三〇枚、壊滅させれば追加で金貨一〇枚……それだけ切羽詰まっているのか)」


 再度確認した報酬は盗賊にしては法外な量であり、銀等級が返り討ちに遭ったせいもあって増えているのだろう。

 今だって、男の組合員が悲壮な様子で報酬を底上げした。


 暗い雰囲気はリアム達の好みではない。リギルもルーもメルディも、みんな騒ぐ方が性に合っている。だから、リアムは愛すべき妖精のために、この状況を打開しようと考えた。

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