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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
二章:首狩りバンデッド
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いざ城塞都市へ











『駆けよ。速さに勝るモノ無し』


 馬上において常勝無敗を誇ったある騎士の言葉である。かの者は常に戦場で前戦に立ち、その手腕を持って駆け続けたという。

 優駿な軍馬に跨がり、激烈な指揮を執る様はまさに英雄。疾風怒濤のヴェラードと恐れられ、現代にまで名を馳せたかの騎士の志は、今もなお受け継がれているという。


―――――― 


 スフィアと別れてから早数日。コツコツと依頼をこなし続けていたリアムは鉄等級(アイアン)に昇級していた。冒険者の等級は銅等級(ブロンズ)から始まり、鉄等級、銀等級(シルバー)金等級(ゴールド)白金等級(プラチナ)神銀等級(ミスリル)となっている。

 そのため、鉄等級になったリアムは、ようやく新人冒険者を抜け出したのだ。


 ちなみに、一般人が努力で辿り着ける限界は銀等級であり、金等級以上はなんらかの才能が必要とされる。


「今までありがとうございました」

「あいよ。また来ることがあったら泊まってくれよ」


 世話になった宿の店主に礼を言い、リアムは早速冒険者組合へと足を運んだ。

 これまでのように、いつものように、組合にて依頼を吟味する。しかし、普段と違うことが二点ある。

 一つ目は依頼の種類。遂に魔導院に赴くことを決めたリアムは、まず城塞都市までの護衛依頼を探すことにした。一気に魔導院まで行かないのは道中を楽しみたいのと、そもそも城塞都市で必ず足止めされるからだ。


 無ければそのまま一人旅――妖精達がいるため一人ではないが――をする予定でいる。しかし運が良かったのか、ちょうど城塞都市までの護衛依頼が貼り出されていた。


「……あった」

「ありがとう紫黒の君」


 そして二つ目は三人目の妖精。名をメルディと言う。わざわざ紫黒の君と呼ぶのは、メルディが妖精語を忘れてしまったのもあるが、気に入らない他人に名を知られたくないという妖精の習性に、リアムが気を遣った結果である。

 リギルとルーは妖精語を話せるため、そちらを呼ぶ時は妖精語に切り替えている。もちろん人に紹介するときは名を伏せて狂風の、水の、と呼ぶが。


 さて、手早く依頼書を手に取ると、リアムは受付にてそれを受注した。


「――あら、リチャードさん遂に城塞都市に行くのね」

「そうみたいです。オーサスに来る道中でお世話になったので、その恩返しも兼ねて受けようかと」


 リチャードは旅の行商人である。リアムが始めて出会った人間でもあり、彼に一般人の常識を教えた人物でもある。主に西の町を行ったり来たりしていたが、とうとう東へ向かって商売することを決めたようだ。

 恩返しを兼ねて、というのはもちろん常識を教わったことだろう。……上手く活用できていたとは思えないが。


 リチャードが出発するのは昼前らしく、今から向かっても手持ち無沙汰になると考えたリアムは、保存食を買うついでに店々を回ることにする。

 保存食はここ数日の間で馴染みとなった店で買った。オーサスを出て城塞都市経由で魔導院に向かうと話すと、気前のいい店主はこれも持って行けと小さな鍋と追加の干し肉を渡してきた。

 町を出るなら鍋はたしかに必要となる。加えて、干し肉は水で煮ればいい出汁が取れるらしく、食べられる野草と合わせれば野営でもひもじい思いをしなくて済むようだ。


 それからも色々な店で様々な道具や食べ物をリアムは受け取った。どれほど遠慮しても、彼ら彼女らは「可愛い妖精に着けて欲しい」、「依頼でとても役に立ってくれたから」と言い、中には「若いんだから無理するなよ」と新品同様の道具を渡してくる奇特な者もいた。


「じゃあ、行ってきます」


 気が付けば沢山の人に見送られ、リアムは依頼人であるリチャードが待つ門へと向かう。その足取りは軽く、心は温かな気持ちで一杯になっていた。


「おや、君は……」

「お久しぶりです。ヴォールさんも」

「そうですね、久しぶりです」

「…………」


 集合場所では以前と変わらないリチャードと、以前より装備の品質が良くなったヴォールがいた。そのほかにも二人ほど、リアムと同じくらいの年齢の冒険者がいる。


「少し早いですが、全員集まったので出発しましょう。城塞都市までは三日ほど掛かるので、途中で二回野営したいと思います。道中様々な危険があるかもしれないので、注意してください」

「おう!」

「ちょっとフリュー君……はい、よろしくお願いします」

「分かりました」


 御者台に乗って手綱を握ると、繋がれている馬が少しばかり機嫌が良さそうに鼻息を鳴らした。それもそのはず、意気揚々とその背に跨がった妖精(リギル)に良いところを見せようと張り切っているのだ。

 しかし、リギルはただ単に乗ってみたかったから乗っただけで、馬が張り切ろうが楽をしようがどうでも良かったりする。


 各々の荷物である背嚢などを荷台の後ろに載せたのを確認すると、リチャードは馬を歩かせ始めた。門を抜けるとそれぞれが馬車の側面と背面に陣取り、護衛が始まる。ヴォールが後ろ、リアムと二人組がそれぞれ側面を担当する。


『「何か面白いこと起きないかしら?」』

『「暇だねー」』

「何も起きない方が良いんだけどね……っと」


 時々すれ違う馬車に轢かれないよう気を付けながら、リアムは暇を持て余す妖精達の相手をする。

 左側に見える森は以前イリスと探索に入ったオーサス北東の森の外縁部であり、そこで起きた出来事が懐かしく思えるほどリアムの生活は充実していた。

 ほんの数日とはいえ、妖精の森で育ったリアムにとって人の世界での生活は、毎日が新鮮味に溢れるものなのだ。


 ガタンッと一際大きく馬車が揺れた。辺境の道は大きな街の近く以外ではきちんと整備されることが少なく、この道も例に漏れずガタガタなのだ。




 それから何事も無く日が落ち、道を外れて馬車が止まる。


「暗くなる前に野営の準備をしましょうか」

「…………護衛は俺が受け持とう。焚き火に使えそうな枝を集めてきてくれ」

「――あ? なんで楽しようとしてんだよ。一つしか等級違わねえだろ」

「ちょっとフリュー!」

「マヤは黙ってろよ! いいか、一つ上だからって偉そうに命令してんじゃねえ!」


 ……さて、枝でも集めようと思った瞬間にこうである。フリューという少年は何が気に入らないのか、怒鳴り声でヴォールに文句を言い始めた。

 側にいるマヤが止めようとしたが、怒鳴られて萎縮している。リチャードはどうしたものかと呆れ顔しているが、どう考えてもヴォールに非は無いように見える。


■■■■■■■■(関わりたくないわ)■■■■■(私達だけで)■■■■■■(集めましょう)

「『……■■■■(そうだね)■■■■■■(そうしようか)』」


 その一方的な言いがかりは妖精にとっては聞きたくない耳障りな言葉のようで、いつもは弱気なメルディや元気に溢れているルーでさえもリギルと同様離れたがる様だ。

 リアムも同様で、こういった善も悪も無い一方的な言葉は嫌いである。


 焚き火には水分の抜けた枯れ枝を使うのが一般的とされる。山火事から連想して木は燃えやすいと勘違いする人もいるが、木というのは実は燃えにくい。細かい木くずや枯れ枝には簡単に火が付くが、丸太や自生している木々は簡単には火が付かない。

 前者は含有している水分によって、後者は燃えても表面が焦げるのみでそれ以上に燃えることは少ない。

 

 人々は長年の知恵から、そして妖精は自然から直接教わりそれを知る。

 数十分もすれば、妖精達の協力もあり十二分に過ぎる量の枝を集めることが出来た。その量はリアムが両手で抱えると前が見えにくくなるほどであり、リギルが半分ほど風で浮かせて負担しているにも関わらず、だ。

 そして馬車の元へ戻ると……


「――あーもううっせえな! いいからオレの言うことを聞いてれば良いんだよ!」


 呆れを通り越すほど悪化していた。


「(どうしようかなこれ……)」


 リチャードとマヤの二人が間を取り持とうとしているが、フリューは聞く耳を持たず、ヴォールはただ堂々と向き合っている。耳が動いているのを見るに、きちんと周囲の警戒もこなしているのだろう。

 リアムは、マヤという少女とリチャードが不憫でならなかった。

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