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妖精に育てられた魔法使い  作者: こ~りん
一章:西の辺境の魔法使い
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一章エピローグ

 ガヤガヤと賑わっている冒険者組合に持ち込まれる仕事(依頼)は多岐にわたる。

 単純に人手が欲しい依頼、現地で専門知識を必要とする依頼、何よりも腕っ節が必要とされる依頼……この程度は序の口であり、職員が不適切だと判断して除外される依頼やそもそも依頼人が不明なモノなど、数えればきりが無いのだ。


 そんな依頼の処理やらなんやらで仕事が山積みの職員の中で、比較的仕事が少ない受付嬢に従事する一人の女性は、頬杖を突いて憂鬱げに溜息を漏らしていた。彼女の脳裏には数日前に新人冒険者が受注した依頼が浮かんでいる。


 その依頼――オーサス北東の森の探索は、鉄等級以下という制限でありながらかなり危険なモノとして職員の間では認知されていた。……依頼人を考えれば納得は出来るが、問題は受注した冒険者にある。

 新人冒険者リアム。妖精を連れた若い魔法使い。登録の際に彼が連れていた妖精の怒りを買った鉄等級の冒険者が、冒険者として再起不能の大怪我を負わせられたことで有名になっている。幸い被害者はその一名だけだったが、二人の妖精を連れている人間というのはそれだけで珍しいのだ。


 無論、組合としては損失以上の働きをして貰えれば文句は無く、彼がこなした依頼も好評のため、残念ながら被害者一名はただの自業自得として処理されている。

 問題は、彼一人だけが受注したという点だ。


「(昔から行方不明者が多発してて危険なのよねぇ……。浅い場所なら魔物も弱いけど、深い場所の情報があまりにも無さ過ぎるから準魔境に認定するべきだって意見もあるし)」


 依頼人指定の冒険者が一人同伴しているとはいえ、やはり奥へ踏み入るには心許ない戦力だ。せめて銀等級がもう二人……欲を言えば三人を追加したいと考える受付嬢。

 もう何度目か分からないため息をついて、そろそろ交代の時間かとぼんやりと思う。


「――君はどうする?」

「同伴するよ。一応、依頼を受けた立場だし」


 二人組が受付へと足を運ぶ。ああ、依頼達成の報告かなと顔を上げた受付嬢は、そこにいる人物の顔を見て固まった。

 つい先程まで心配していたリアムがいたから――ではない。


「達成報告書の確認をお願いするよ。魔導具使用料金はこちらで持つから可及的速やかにね」

「え、あ、はい!」

「それと、持ち帰った情報を精査する際に協力を仰ぐだろうから、そのことも上に伝えておいてくれ」


 彼女が固まってしまった理由は、類稀なる“無尽卿”と世に知られる魔導師であり、()()()()()()()()()()()()()()()にある。

 同行していた銀等級冒険者のイリスはどこへ、などという考えは受付嬢の頭には浮かばなかった。それよりも、どう歓待するか、そもそも組合長の元へ案内するべきか、あわあわと慌てている始末。


 その様子に気付くと、スフィアは片目を閉じて口元へ指をやる。


「今の私は一介の依頼人だ。あまり気にしないでくれたまえ」


 仮にも貴族位を持つ人間だ。本人が良いと言わない限りもてなすのが礼儀であるため、この言葉は受付嬢にとってとても有難かった。

 それから手早く手続きを終わらせると、リアムへの報酬が渡される。


「コホン。こちら報酬となります。ご確認を」


 リアムに支払われた報酬は、手数料を抜いて銀貨二〇枚。不格好で飯櫃(いいびつ)な銅貨とは違い、きちんと形が整っている。表面に彫られた横顔は叙情詩にも語られる英雄の横顔であり、間違いなく西方三大国で流通しているジグルド銀貨だ。




「さて、私は王都に戻って国王陛下に報告しなければならない。一刻を争うわけではないが、だからと言って悠長にしていいことでもないからね。あと、これはオマケだ」


 リアムが泊まっている宿の前で、スフィアはリアムに白く輝く硬貨を手渡した。銅貨や銀貨ではない、しっかりとした重みと丁寧な彫刻が特徴的な硬貨だ。


「一般市民なら一生働かずに暮らせる額だ。それで満足するのならそこまでだが…………君に向上心があるのなら有効に使ってみせるといい」


 フードを被り、「その時を楽しみにしているよ」とスフィアは姿を眩ませる。

 大量の魔力が使用された形跡が残ったため、何らかの魔法でも発動したのだろう。


 それから、リアムは宿の自室に戻り、ベッドで横になっている妖精の傍に座る。歩くことすらままならない様子だったので、リギルとルーが二人がかりで宿に運んだのだ。

 契約を通してリアムの体に宿っていた神秘を移したが、それでも妖精が本来有する神秘には及ばない。そのため、回復のため今は穏やかに眠っている。


「…………白金貨か」


 先程渡された硬貨を改めて手に取る。

 薄く白色に輝く金の硬貨だ。価値は大凡で金貨一〇〇枚前後もあり、貴族か大商会……そして、金等級(ゴールド)の冒険者の中でも経験を積んだ者しか稼ぐことは困難だろ言われるほどのもの。それを今、リアムは手にしている。


「(正直舞い上がりそうだけど……もっと色々見て回りたいし、そのために冒険者になったんだ。それに、追いついてみたい)」


 しかし、大金を手にしてもリアムを平常心を崩さず、布で厳重に包んでから財布とは別の場所に仕舞った。

 スリを行う者がいる以上、大金を隠しておくのは正しい判断だ。


 続けて取り出したのは一通の手紙。正確には、スフィア名義での魔導院への紹介状である。森から帰還する道中に彼女からリアムへと渡されたものだ。

 有効に使って見せろというのは白金貨ではなくこちらの方だろうとリアムは判断する。魔導院は王都の南西にあるらしく、この町から山々を挟んで南東にある。しかし、南の道は更なる辺境にしか続いておらず、魔導院に向かうならば城塞都市と王都を経由しなければならない。


 この豆知識のようなアドバイスは手紙と一緒に渡されたメモ用紙に書かれていた。


「城塞都市は東にあるんだっけか……」

『「どこに行くの?」』

「魔導院だよ。……冒険者の等級を上げてからになるだろうけど」


 それに、まだ名前も知らない妖精が一人いる。彼女の回復も待たなければならない。

 効くのかは分からないが、薬や食事など今までより更にお金が掛かるだろう。どちらにせよ新人扱いから脱却できるよう頑張らなければと意気込むリアムであった。

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