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第2話 坊主屋

 第2話




 坊主屋




 その日もトメさんの法螺話を子供達の後ろで聞いていた。


「皆、そういえば浦安に大きな遊園地あるだろう、行った子いるかい?」


「うん、TDLって言うんだよ、おばあちゃんこそ行った事ないの?」


「もちろん有るよ、あそこは元々おばあちゃんの土地だったんだよ。」


「うっそー!あそこは海だったんだぜ、埋め立て地を国がデズニーに貸したんだよ!」


「違うんだよ、戦争前、あそこは大きな干潟でね、あさりなんかいっぱい取れたんだ、

おばあちゃんが若い時その”漁”を手伝っていたんだ、ある日船から浅瀬に飛び降りたら

足先に”ガツン”と当たるものがあったんだ、何かな?と片手を突っ込んで取ろうにも取れない、両手を突っ込んでも取れない、それを見ていた船頭さんも飛び降りてきて一緒に”エイヤサー”と引き上げた。何が出てきたと思う?」


「大きなゴミ?船の残骸?」


「違う違う、それは大きな”金塊”だったのさ。」


「エー!本当?」


「おばあちゃんは、嘘をつかないっていつも言っているだろう。

そんでその”金塊”を船頭さんと山分けにしたのさ、

金塊を銀行でお金に両替してもらって、そのお金で、おばあちゃんは

その干潟を買ったのさ。

船頭さんは船を新しくして、これで”あさり漁”永久に出来ると思ったんだ。」


「じゃあ、何でいまも”漁”をしてないんだい?」


「船頭さんは船しか買わなかったからお金がいっぱい残っていたんだ、

働かなくてもお金があるから、働くのがいやになっちまったんだよ、

毎日、朝からお酒ばかり飲んで、体壊して死んじゃったんだ。」


「ふーん。」


「船が無いから漁が出来なくなってね、困っていた時、国が干潟を”買い戻したい”

って言ってきたんだよ、でもおばあちゃんにとっては大切な土地さ、断ったんだ、

でも国もしつこくてね、毎日のようにおばあちゃん家に押しかけてきたのさ。」


「それで・・・」


「そりゃー毎回断ったたんだけど、ある晩真夜中に目が覚めたら枕元に黒いものが

いたんだ、ビックリしちまって口も利けずに見ていたら、こっちに向かって頭下げる。」


「何だったの?その黒いヤツは?」


「一生懸命に何回も何回も頭さげるのさ、そいつが、

気味が悪かったけど、目も暗さに慣れてきてよく見ると、

大きな”耳”したバケモノさ。」


「それで、それで、・・・・」


「深夜に黙って人のうちに押しかけて、それもレディーの寝室に入り込んで

何者だ!〜って怒鳴ってやったのさ。

そしたらそいつはまた頭を下げる、

いいから”名”を名乗れって言ってやったんだ、

そしたらそいつは小さな声で、

(メッキーマウス)って名乗ったんだ。」


「ばっかみてー、おばあちゃん嘘つくのもいい加減にしろよ!」


「まー、いいから良く聴け、そんでおばあちゃんはその”メッキー”

の話を聞いてやったんだ。

そしたらあの干潟に子供達が喜ぶ物を作りたいから、干潟売ってくれって

言うんだよ、(ネズミのくせに生意気を言うな)って言ったんだけど

何度も何度も大きな耳を畳に擦り付けるように頼まれてね、

しかたない、子供達が喜ぶならと”メッキー”に売ってやったのさ、

だからもともとあそこはおばあちゃんの土地だったのさ。」


「証拠でもあるのかよ、そんな話、僕は信じないよ、おばあちゃん。」


「証拠と言えないかね〜、こんなもの、皆は知らないかもしれないけど・・・・。」


と言いつつ、トメさんは懐からカードみたいなものを取り出した。

それはTDLの”年間パスポート”だった。

一枚だけではない、皺だらけの手に握られたカードは、

過去の分もあわせて十数枚も有るように見えた。


「毎年、ただで送ってくるのさ、ミッキーから・・・」


子供達は唖然として言葉が出なくなった。

いきなり声が掛かった。


「おい、シュウ、オメーはまた人の話立ち聞きしてから・・・

公演料払え、お前は子供じゃねーから、ただで聞かすわけにゃ

いかねーんだ。」


「トメさんよー、そんな与太、金取れるような話じゃねーだろう?」


「いや、他の人間ならいざしらず、オメーは駄目さ。金払え!」


「なんで?他はよくて俺は駄目なんだよ?」


「オメーは、寺のガキだからさ。」


「寺のどこがいけねーんだよ。」


「お前ん家でも大法螺吹いて金稼いでんだろう、同業者じゃねーか、

その稼いだ金の一部を恵んだって”バチ”当たんめー?」


「なに言ってんだよ、俺んちの何処が大法螺吹きだ?」


「まだわかんないんか?やはり”バガ”につける薬はねーやさ、

あのよ、お前ん家で檀家がやる葬儀や法事のあと、お前の親父

が偉そうにする法話聴いてみろ、”だれでも念仏すれば必ず極

楽浄土に生まれます”なんて大法螺吹いてから、

誰か極楽浄土に行った”ヤツ”を見たことあっか?

オメー、そんな法螺吹いて毎回たっぷりと御布施とっとんじゃろ、

国が認めた”法螺吹き稼業”の代表格じゃねーか、

だから、同じ”法螺吹き”が助け合ったって悪くねーじゃろ、

オレはお前ん家と違って、いつも金は取ってねーぞ、だけど同業者

から話のネタを聞こうってんだから、金払え!300円!!」


流石は法螺吹きトメさんだ、理屈は合っている、

でもどうしても納得できない。


「んんん〜でもさトメさん....」


「納得できねーんだろう?シュウ、・・・家帰って”秀道”に聞いてみろ、

きっとオメーはオレに金払いに来るわさ、ひっひっひっ。」


「なに云ってんだ、誰が来るか!?」

「でもどうして親父の名前知ってんだ?」


「ウルセー、今、払えないんだったらさっさと()−れ、もうオレの

”法話”は聞かせねー、オメーも頭丸めて早く”坊主屋”になれ、

シュウ、そしてそのうち立派な”法螺吹き”さ。」


「ケッ!何云ってんだ。」


その日はその場を離れ、帰宅した。































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