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第14話 ちいさな光

 第14話



 ちいさな光



 翌年の春、深雪に一通の手紙が届いた。

高校時代の同級生からだった。

なつかしい女友達から近況報告、写真の数々。

一時ではあったが”ホッ”として顔が綻んだ。

だがすぐ現実に引き戻された。

友人の子供と一緒に写った幸せそのものの姿は、今の深雪には

ひどく恨めしくも、眩しくも映り、心が押しつぶされそうだった。


手紙の最後の方にクラス会をやるので ”出欠の有無と近況を

知らせて欲しい” との旨が書かれていた。


「返事なんて出せるわけが無い。」


心に思う言葉には友人への怒りと妬みで一杯であった。


「貴方達は暢気で良いわよね、私には子供さえいないのよ!」

「この環境でどうやってクラス会に出れると言うの?!」

「極楽トンボの集まりだから、そんなの " トンボ "達だけでや

ってちょーだいよ!」


大学に進学した者にとっては社会人10年目、深雪のような高卒

の人間からは15年近い歳月が卒業後流れていたことになる。

もちろん友人には会いたい、先生にも会いたい。15年という月日

は皆をどう変えているのだろうか?

でも・・・・、何とか時間を作って出たとしても、自分として誇

れるものや談笑できる話題などあろうはずもなく、いまの深雪の

生活の実態がみんなに判れば判るほど " 不運な人 "、" みじめ

な人 "の代表者扱いされかねない。

同情の中での宴会など耐えられない。あざ笑われるかもしれない。

こんな自分を誰にも見せたくない、知られたくない。


悔しさと惨めさに、涙は留まることを知らず流れ出る。

無意識にも書面を握った手には力が入り、いつの間にか便箋や写真

を強く握りつぶす自分がいた。


一ヶ月の時が流れた、クラス会の話などとうに忘れていた深雪に

電話がなった。

聞き覚えの有る”のん子”有田紀子からだった。

一年の時からなんとなく気が合い仲良くなった女友達だった。

卒業後は2人とも生活が激変したためなんとなく疎遠に成ってはい

たが、別段喧嘩別れしたわけでもなくお互いの環境の変化からなん

となく音信が途絶えていただけだった。

今は姓が変わり片平紀子に成ったと言う。


「なん? 元気しとるん?、返事出てへんのミユキだけなんや。」

「どないする、せっかくやから来んね?」


なつかしい声だった、声の調子からして彼女自身とても幸せな人

生を送れているのだろうか?


「先生もだいぶとお年召されてから、会っておかんともう会えん

ように成るかもしれへんで?」


「でも、うち・・・・・・あかんねん、出られん。」


「ミユキ?なんかあったん?具合でも悪いんか?、偉い元気あれへんな?」


「ほっといて・・・・お願い、うちの事はほっといて!。」


紀子がまた受話器越しに何か言いかけたが、深雪は受話器を無造作に

置いた。

そのあと何度か着信ベルが鳴ったが、最後まで出る事はなかった。


2、3日経っただろうか、突然深雪の家に(おとな)いを入れたものがいた。


「こんにちわ?深雪さんおんなさりますか?」


聞き覚えのある " のん子 "の声だった。


慌てて玄関へ出た深雪を見て" のん子 "は絶句した。

同級生のはずが自分より遥かに歳を重ねた如き老け込み様、ザンバラ髪には

白髪も混じり、肌には艶などなく光を失ったような虚ろに見つめる瞳にすでに

力はなく、さながら生ける彷徨い人のような女が上がりガマチに現れたのだった。


一瞬、この同級生に何が起きているのか判らなかったが、ただ事ではないこと

が現在進行形でこの女に起きている事だけは外見から想像できた。


「み、深雪!! どないしたん!!!?」


「のん子?、紀子なの?...ごめん、今、来てもらっても何にも....。」


「何があったん!!?私でよければ何かでけること無い?」


「・・・・・・・・」


それから玄関先でいろいろと聞き出す紀子に対して、ゆっくりと現状を説明せざる

を得なくなり一通りの出来事を話し始めた。


「そう・・・大変なんやね・・・。」


いつもの慰めの言葉、聞き飽きていた、やはり親友といえど出せる言葉はこれしか

ないのだろう。


「たしかに、クラス会どころやないんやね・・・・ごめんね。」


しばらく沈黙の時が流れた。


「あのな、うちの旦那が福井の役所勤めやから、なんか手が無いか聞いてみる。」


おざなりの挨拶を済ませ片平紀子は帰っていった。

無論、紀子が帰り際に言った”なんか手が無いか?”という台詞に期待などはしな

かった。


「みんな同じや、私に関りあわんほうがええよ、ほっといて。」


ただ、片平紀子はいままでの人間とは違っていた。

その週の日曜日、ある " 提案 "をもって深雪の家を再訪した。

ただの同級生と思って期待などしていなかった深雪には驚きの出来事だった。

片平紀子が再度訪れた時、旦那も同行してきた。


「深雪、おせっかいかも知れない思たけどな、一つの制度がこの国にあるいうことが

判ったんや、いまの深雪にええか悪いか、わかれへんけどな詳しく説明するよって聞

くだけは聞いてほしいんや。私はよう説明できんで、旦那を連れてきたんや、県の職

員やから制度の説明はこの人がしてくれる。」


話は一時間近くにも及んだ、要約すると一家の”丸投げ”だった。

この家にある動産、不動産、など全て国や行政に任せ離縁して一人立ちすると言うこ

とだった。

無論、実家に戻っても良いし、働き口を見つけられれば、一人で暮らしていっても良

いと言うことだった。

農業権や田畑などの不動産、積み立て残りの動産を行政が処分して寝たきりの3人の

介護費用の一部とし、後のことは公的機関がすべて取り仕切り面倒を見る、深雪はこ

の家とは完全に無関係になるということだった。


今の深雪にとっては " もってこいの " の話だった。

気持ちの中に " ちいさな光 "が挿し込んできたようだった。


「で、でも・・・・・そんなこと・・・。」


優しく語りかけ説明をするのん子の旦那の声に、気持ちが大きく揺らぎ言葉にはなら

なかった。


「とても大きな決断や思います。今すぐ答えなど出んのは当たり前でしょう、

せやけどお宅を拝見させていただいたところもうこれしかないんと違うやろか?

思たんですわ。」


温かい手が差し伸べられている様でもあり、また職場放棄、家族見殺しのようにも

考えられる。


「子供がいるわけでもないんや〜、再婚して新しい人生を送ったらどうかな?」


のん子が背中を押すような言葉を投げかける。


「ま〜、よう考えてから答えを出したらええのん違うかな?」

「そーや、深雪、よう考えて決心がついたら、電話して、いつでもええよ。」


ちいさな、ちいさな光の種を深雪に置いて片平夫婦は帰っていった。































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