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リニカルリリカ  作者: 柚須 佳
第一章 ヒーレンヴィルナの人工精霊
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7.ハル坊とルウさんは親しいのです

 私がハーバリウムに入ると、正面に見える扉から、丁度園長さんが出てくるところでした。先に入ったハル君が声を掛けたのでしょうか?

 たしか、このハーバリウムは三部屋しかなく、私たちが入ってきた扉から縦に部屋が並んでいたはずです。なので、今園長さんが出てき部屋が中央の部屋にあたるのでしょう。そして、一番奥の部屋に行くには、この中央の部屋を通らなければならないので、作りとしては不便ですよね。園長さんとお昼を共にした際に、そんなぼやきを聞いた覚えがあります。

 ところで、見た感じですと、今私たちが入ってきたこの部屋は、倉庫というか資材置き場の様です。あちこちにプランターやら、スコップやら、土嚢どのうやらが溢れ返っています。そして、向こうに見える中央の部屋が作業部屋らしく、白衣を着た人たちが机に向かい、なにやら植物を仕分けているようです。これは、正面がガラス張りのため、中の様子が一目で分かります。

 さらに、このガラス部屋の奥の壁にも扉があることから、最奥の部屋が標本保管庫になっていることがうかがえます。

 小さなハーバリウムですが、植物専門の大学でもないので、規模に関しては仕方ありませんね。これだけの施設があるだけでも十分なはずです。


「急に人が来たから、誰かと思ったけど、あんた、ルリリカさん?」

 園長さんは、私と目が合うと、そう言ってきました。

「そして、こっちは、ハル坊だね」と、にこやかにハグをしています。

 ハル坊? えっ? ハル坊ですか? どういうことでしょう?

 ハル君がハル坊になってしまいました。

「やあ、ルウさん、お仕事中すみません……、急にお尋ねして……」

 ハル坊が、いや、ハル君が園長さんと話しています。

 ダメです……、ハル坊の衝撃が大きすぎて、いまいち会話が頭に入ってきません……。

 いったい、どういう関係なのでしょう?

 私が不思議に思っていると、園長さんが今度は手招きをしています。

「さあ、ルリリカさんも、こっちへ」

 ハル君と何やら話していたみたいですが、交渉成立でしょうか?

 どうやら隣の部屋へ行くみたいです。と思っていたのですが、園長さんとハル君は白衣を着た作業員の後ろを通り抜け、さらに奥の扉へと向って行きます。

 作業の邪魔にならないように、でしょうか? まあ、お仕事中に私たちみたいなのが、背後で話しをしていたら、それは気になってしまいますからね……。

 しかし、どんな作業をしているのか興味を惹かれますね。

 私は横目でチラッと作業をしている方の手元を見ながら、ハル君の後ろをちょこちょこと付いて行きました。


「ねえ、ハル君、そう言えば、ずいぶん園長さんと親しいみたいですね」

「まあねぇ」

 ハル君が振り向きなら答えると、園長さんがにこやかに続けます。

「そっ! ダメな子ほど可愛いっていうじゃない? ねえ、ハル坊!」

 園長さんは、そう言って笑いながら奥の扉を開けると、私たちに入るよう促しました。

「ダメな子なんですか? ハル君が? ……っていうより! 凄いですね! 標本!」

 私は標本室に入るなり『ダメな子のハル君話し』を忘れて、植物標本の可愛さの方に気を取られてしまいました。

「あらあら、ルリリカさんは植物に興味があるのかい?」

 私が目の前に広がる植物標本に目を輝かせていると、隣で園長さんが話しかけてきました。

「はい! 昔から可愛い草花が好きでして! あっ! これマツリカですか?」

 私はモコモコとした白い壺のような花の入った標本箱を手に取っていました。

「はいはい、標本箱はそんな風に持っちゃダメだよ!」

 園長さんさが、やんわりと割って入り、私の手から標本箱を取り上げて、元の場所へ戻してしまいました。

「すっ、すみません……、つい興奮してしまって! でも本物のマツリカを始めて見たものでして……」

「まあ珍しいのは分かるけどねえ! これも先日、ヴォーアムの南の方まで行って採取してきたもんだからさ、もう少し丁寧に扱ってほしいもんだね」

 そう言うと、園長さんは優しい目つきでハル君を見つめました。

「あー、これもあの時のですか? どうやら僕は草花に疎いようでして……、これを見ても何が何だか……、みんな同じように見えてしまいますよ」

 ハル君が肩をすくめて笑っています。

 つられて園長さんも笑顔になりました。

「まあ、とりあえず、こっちに」

 園長さんは、そのまま標本棚の脇を通り、部屋の隅にあるこじんまりとした応接室、といっても部屋ではないので、応接セットでしょうか? そこまで、私とハル君を案内すると、「ジャスミン茶を淹れてくるので、ちょっと待っててくれる?」と言って、一度部屋を出て行ってしまいました。

 その応接セットは、本当にこじんまりとしていました。小さなパイン材のローテーブルを挟んで、二人掛けの黒い革張りのソファーが二脚置かれていて、その片側のソファーの上には、数冊の植物図鑑が乱雑に置かれています。先ほどまで、園長さんがここに座って見ていたものでしょうか?

 私とハル君は、その図鑑の置かれていない側のソファーに、二人並んで腰かけ、園長さんが戻ってくるのを待っていました。

「ねえ、ハル君、なんで園長さんと親しいのですか?」

 私は、先ほど中断してしまった、ハル君と園長さんのことを再度尋ねてみました。

「あー、それねー」

 ハル君はソファーに深く腰を沈めると、伸びをしながら続けました。

「さっき、フィールドワークの話しをしてたでしょ」

「フィールドワークですか?」

「そっ! ヴォーアムの南の方まで行って草花を取ってきたアレね」

「はい」

「アレ、僕もチームの一員として参加してたんだよ」

「えっ? ハル君がですか!」

 驚きました! 園芸部でもなく、植物に興味もないハル君が、どうしてなのでしょう?

「でも、なんでハル君が同行なのですか?」

「うん? 決まってるでしょ! 僕が幻灯者ホロライターだからだよ」

 あっ! そうでした。ハル君は、というより、セダリ氏族は幻灯者を多く輩出しているのでした。


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