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リニカルリリカ  作者: 柚須 佳
第一章 ヒーレンヴィルナの人工精霊
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6.ハーバリウムに行ってみるのです

 いつもは通り抜ける帰り道の正門を抜けず、その手前を左手に折れました。

 そのまま正門から続く壁沿いの道は、所々ぬかるんでいて、気を抜くと滑って転んでしまいそうです。植物たちが吸収できなかった水分が、こちら側へ流れてきているのか、そこかしこに水たまりがあります。

 壁により、日当たりも悪いせいか、この辺りは花の香りより、土の匂いを強く感じます。

 まあ、それはそれで故郷のイビラガ村を思い出すので、悪い気もしませんが、オボステム市という都会のど真ん中でも、これほどの土の匂いに出会えるとは思ってもいませんでした。

 そんなことを思いながら歩いていると、少し先を行くハル君が急に立ち止まりました。

「ルリちゃん、あの一番奥のは、なんだったっけ?」

 うん? ハル君はハーバリウムの手前の花壇に視線を向けています。

「あれは、クサフジですね」

「そっか、あれも、なんだか少し足りない感じがしないかい?」

 ハル君に言われて、私もクサフジの花をマジマジと見ました。

 うーん、言われてみれば少なく感じますが、ツマトリソウほどではありませんね。

 正直、微妙なところです。

「そうですか? じゃあ、後でこれも空間風景幻象術で見てみましょう」

「ああ、そうしようか。じゃあ、やっぱりまずはルウさんだね」

「ルウさん? 誰ですか?」

 私が疑問をぶつけると、ハル君はハーバリウムを指差して再び歩き出しました。

「園長だよ。植物園のルウデニク・ココジェスさん。通称ルウさん。いいおばちゃんだよね」

 いいおばちゃんなんて失礼な! と言いたいところですが、確かにルウデニク園長は、いいおばちゃんです。私は普段、園長さんとお呼びしていたので、名前まではパッと出てきませんでしたが……、申し訳ございません。というより、ハル君は園長さんのことを、ルウさんと呼んでいるなんて! ビックリです。

 確か園長さんは、オークの方ではありません。であれば、デニクまで含めて名前ですよね? ルウデニクさん、それをルウさんだなんて、気安く呼んでいるハル君のことが、ちょっと信じられません。


 実はですね。入学初日のお昼の混雑時に、キャンパス内のカフェテリアで、園長さんと相席になりました。その時ですね、園長さんが私の紅茶を見るや否や、突然ハーブを入れてきたのです。

 私は驚いて園長さんの顔を見ることしか出来なかったのですが……、園長さん曰く、カフェテリアの紅茶はいまいちで、植物園で栽培したハーブを後からこっそり足していると言っていました。「こうすると、とても美味しくなるのよ!」と。

 確かにハーブを入れて頂いた後の紅茶は、とてもスッキリとして後味が最高になりました。

 私が華やいだ紅茶に、さらに目を丸くしていると、園長さんは、ねっ! とにこやかにウィンクをしました。

 なんだか、とても親しみやすく、楽しい人だな、と思ったのが最初の印象です。

 それからも、何度かキャンパス内でお見掛けすることがありました。すると挨拶のついでに、「次にハーブが取れたら、あなたにもあげるからね、是非取りにいらっしゃい」と、声を掛けてくれるのでした。

 なぜ、園長さんが、私を贔屓ひいきにしてくれているのか、今のところ分かりませんが、それは、決して悪い気はしないので、私も甘えている、というのが実状です。なんせ、この大学に入って最初にできた知り合いなのですから。

 ですが、今日は良い機会なので、話しのついでにハーブを頂けたら嬉しいですね。


 私が園長さんに思いを巡らせていると、ハーバリウムはもう目の前でした。

 ハーバリウムの壁は一面大量の蔦で覆われており、もう少しで扉まで飲み込まれてしまいそうです。

 一応は大学の施設なのですから、もう少しきちんと管理した方が良いのでは? と思ってしまうのですが……、どうやら管理出来ていないのは、蔦だけではなく扉の鍵もでした。

 ハル君はなんの躊躇ためらいもなく扉のノブに手を掛けると、そのまま扉を開けて中へ入って行ってしまいました。それはもう、自分の家へ帰るように滑らかに! です。

 私は唖然として、その光景を見つめていました。

 暫くすると、今度は扉が開き、そこからひょっこりとハル君が顔を覗かせました。

「ルリちゃん? なにやってんの? 早くおいでよ」

 えっ? ハル君って、こんなに飄々《ひょうひょう》としていましたっけ? なんだか村にいた頃より垢抜けたみたいです。


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