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リニカルリリカ  作者: 柚須 佳
第一章 ヒーレンヴィルナの人工精霊
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4.アスタリスクのような白い花です

「確かにそうですね。言われてみればです。でも、酷いことをしますね」

「だよなねぇ」

 私たちは、花壇の前で、一面に茂る草花を見下ろしていました。

 そして、私は段々に並ぶそれらの列を指差して説明するのです。

「えーと、ですね……、手前から、シロツメクサ、ツマトリソウ、スズラン、ヒメマイズルソウ、ここから少し黄色が混じって、ヒナギク、クサキンポウゲ、サクラソウ、最後は淡い紫色の花が可愛いクサフジと続きます。そして、ハーバリウムの建物に絡みついている蔦がアイビーですね。ちなみに、ヒメマイズルソウとクサキンポウゲには毒があるので、食べないでくださいね」

「誰が食べるか!」

 ハル君のツッコミも久しぶりですね。村以来でしょうか?

「それにしても、随分と植物に詳しいねぇ。そんな趣味があるとは知らなかったよ」

「あれ? そうですか? 子供の頃から好きでしたよ! まあ、ハル君と植物の話をしても盛り上がらないので、あまり話しませんでしたが……」

「えっ? そうなのかい? それは知らなかった……、ところで、その花が摘み取られているところはなんだっけ?」

 ハル君は手前から二列目を指差しています。

「ツマトリソウですね。ほら、少しだけアスタリスクみたいな白い花が残っていますよ」

 九種類の草花が、手前から最奥のハーバリウムまで列ごとに植えられていて、その小さな生命は春の陽気に勢いよく花を咲かせているのですが、なぜだかツマトリソウの列は花だけ摘み取られています。

 それも、綺麗に全部と言うわけではありません。ところどころ淋しげに、いくつかの花は残っていたりします。

 これは、どういうことでしょうか? 小鳥がついばんだのでしょうか? もしくはリスやらネズミなどの小動物でしょうか? しかし、果実ならともかく、花を食べるなんて聞いた事がありませんね。それに、ツマトリソウだけ選り好むのも変な話しです。


「あっ! ハル君! 入ったらダメですよ」

 ハル君が何食わぬ顔で、花壇へ侵入して行きます。

「うん? 手前のここは雑草じゃないのかい? それこそ、こんなクローバーはどこでも見かけるけどなぁ」

「そうですが……、違いますよ! どこにでもあるシロツメクサですが、これだけ綺麗に敷き詰められているのですから、自生しているわけではないと思いますよ」

 私の忠告も右から左です。ハル君はシロツメクサの絨毯じゅうたんを踏み荒らして、ツマトリソウの手前まで行ってしまいました。そして、そこでしゃがみ込むと、残り僅かなツマトリソウの花に手をかけています。

 どうやら観察しているのでしょうか?

 あっ! 摘み取ってしまいました!

「ハル君! ダメじゃないですか! 園長さんに怒られますよ!」


 ハル君は、ツマトリソウの花を人差し指と親指でつまみ、繁々と眺めながら、戻ってきました。

「ねえ、ルリちゃん、この花って、何か薬効ってあるのかな?」

「薬効ですか? うーん……。特には無かったと思いますよ」

 今度は私の目の前で、茎をつまんで、竹とんぼでも飛ばすかのように、クルクルと回し始めました。

「そっかぁ、じゃあ毒性は?」

「毒ですか? それは、さっきの二つだけですね。ヒメマイズルソウとクサキンポウゲ」

「そしたら、後はなんだと思う? やっぱり食用かな?」

 ハル君は、小さな白い花びらを、じっとりと見つめています。

「食用は……、まあ、食べて食べられないことはないと思いますが……、鳥や小動物が積極的に食べないものは、人間が食べても美味しくはないと思いますよ、って……」

 えっ!

 今、食べましたよね?

 花びらをパクっと……、一枚? さっき、そんなもん食べるか! って、言っていたのは、誰でしたっけ?

「うん、そうみたいだねぇ。確かに美味しくはないね……」

 苦かったのでしょうか? ハル君の口が、への字に歪んでいます。

「……そうすると、やっぱり、なんで、この花だけ摘み取られていると思う?」

 そこまで言うと、ハル君は私の目を見て、ゆっくりと続けました。


「ねえルリちゃん、違和感、ないかな?」


 そうなのです。改めてハル君に言われるまでもなく、最初に見たときから違和感があるのです。

 これだけ綺麗に敷き詰められた花壇の中、二列目のツマトリソウの部分だけ、ざっくりと花が摘み取られている光景には、とても違和感があるのです。

 葉や茎ごと刈り取られているのであれば、夏へ向けての植え替えの準備かとも思うのですが、いかんせん花だけが摘みとられていることに違和感を覚えるのです。他の花は咲き誇っているのに、ツマトリソウの花だけが摘み取られているのが不自然に見えるのです。

「違和感があります。なんでですかね?」

 私は無意識に人差し指を口許に運びました。

「おっ! 来たね、その指! 村での『クネニのジャム事件』のときみたいに、また二人で調べてみるかい?」


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