三話 しょうがない、やるか
三話でございます
さて、今いるこの世界だが。俺が前世でプレイしていたゲーム『ブレイブファンタジア』に非常に酷似している。
ゲーム内容は至ってシンプルなRPGだが、ストーリーは某有名な小説投稿サイトの小説を原作にしており、一定の層には評価が高かったらしい。
主人公は虐げられていたが、途中から覚醒する。
覚醒した主人公はその力を持って周囲の人々の関心を一気に持っていき、頼りになる仲間も増える。そうして暫くすると、俺が現れて……哀れに死んでいくのだ。
「やばい。このままだと盗賊に堕ちて……」
あれよあれよと悪い方向に落ちていくイメージが俺の頭の中で行われる。こんなことではダメだ。と自分を奮い立たせようとするが、じゃあどうするんだ?という疑問にぶち当たる。
ーー自主的に冒険者を辞めるのは嫌だ。それは『レイジ』のプライドが許さなかった。すぐ主人公と関わりがなくなるせいでゲームじゃ分からなかったが、レイジは冒険者に誇りを持っている。それは農家にいた頃の環境が影響しているが……。
「こんなところに居たんだ」
とふいに声をかけられた。考え事に夢中になって目の前の気配にも気付かなかった。
「……ユーシィか。こんなところにどうしたんだ」
「それは私のセリフだよ。レイジが心配で寝れなかったのに、そのレイジが夜にこっそり出ていくから、私……」
後半あたりでユーシィの目が潤み始め、座っていた俺に覆いかぶさるように抱きついてくる。
「本当に、本当に心配したんだから……!」
「ああ。すまなかった」
嗚咽まじりのユーシィの言葉に俺は不器用に返す。
なお、心の中で『京介』はとてもパニックになり、「レイジ』である部分は冷静に口を動かす。
こんなに可愛い子に好かれて幸せ者だと思う。今尚俺の腹に顔を擦り付け、泣いているユーシィの頭を撫でる。
「明日はダンジョンに行く前に作戦会議だな」
「体は本当に大丈夫なの? 無理してない?」
腹から顔を上げ、上目遣いになる。まるで母親のような心配の仕方で、俺はつい苦笑を漏らす。
「ただ作戦を考えるだけだから、大丈夫だ。……ミレスの抜けた穴はデカいからな……」
「えっ? そんなのレイジがいたら大丈夫じゃないの?」
厚い信頼だ。だが、俺はミレスが抜けた後このパーティー……竜のアギトがどうなるかはもう知っている。
ゲームではコイツら全員クズだな、なんて思っていた。……まあ実際にミレスに対しては凄い厳しいが。
それでも、俺はパーティーのメンバー達の良いところも知っている。だからこそ……俺はパーティーの崩壊を防ぐために動くとしよう。
傲慢だった『レイジ』はもう一人の『京介』と融合した事によって俺は選択肢を掴んだ。
新たな決意を胸に俺は立ち上がる。
「……レイジ?」
「……今夜はもう宿に帰るか。ほら、歩けるか?」
いつの間にか隣に座っていたユーシィの手を取り立たせる。そして手を離そうとしたら……逆に握り返されてしまった。
「……わかったわかった、このまま帰るか」
「うんっ」
喜色を浮かべたその笑みに俺も苦笑する。
俺たちはそのまま手を繋いで帰路を歩いていった。
……二人とも頬を赤くして照れていたのは内緒だ。